海をみつめる日(P50)参照
王童
ワン・トン
監督
解説
王童による“台湾三部作”の第2作目に当たる作品。前作『村と爆弾』(87)で日本占領時代の台湾に生きる人々をアイロニーを漂わせながら描いたが、今度は1949年に国民党軍とともに台湾に逃れてきた無教養な農夫を主人公に、他人になりすまして生きざるをえなかった主人公の姿を悲喜劇として描いている。脚本は実際にあった似たような話から構想されたといわれ、他人になりすました主人公の姿をコメディー調に近いユーモアとともに描いているが、その裏に隠された痛みの深刻さによって、現代台湾の政治的で社会的な痛烈な風刺にもなっている。こうした悲喜劇の混ざり合ったアイロニーが“台湾三部作”の大きな特徴となっているが、この『バナナ・パラダイス』は三部作のなかでもその特徴がかなり色濃く出ており、とりわけラストにおける偽物の家族の方が本物の家族よりも絆が固いという視点は強烈である。題名の「バナナ」は台湾を象徴する果物であり、それにも鋭いアイロニーが込められている。
物語
1949年、国民党は共産党に破れて台湾に移る。国民党軍に兵卒として徴兵された無知でお人好しの農夫の門栓は、友人の得勝とともに、台湾ではバナナという美味な果物が腹一杯食べられるといわれて台湾にやってくる。だが、現実は厳しい。得勝は共産党員と疑われて拷問され発狂。門栓は軍隊を脱走し、偶然知り合った月香と偽装結婚、彼女の亡くなった夫の名前と身分で役所に就職する。だが、偽った男が北京大学英文科出だったから大変。多くの難題が降りかかるが、無教養な門栓は月香の励ましと才知で困難を切り抜け、ついに局長までに出世する。やがて門栓と月香の生活も安定し、得勝の面倒を見る余裕もできる。だが、他人になりすました門栓のアイデンティティーが崩壊するときがくる。台湾と大陸の行き来ができるようになったのだ。名前と身分を騙った男の大陸にいる老いた父親と電話で話す門栓。そのとき、門栓は自分の偽の家族が本物以上に固い絆で結ばれているのを悟る。
(村山)
スタッフ
製作 : 徐國良 シュー・クオリャン
監督 : 王童 ワン・トン
脚本 : 王小棣 ワン・シャオディー、宋絋
撮影 : 廖本榕 リャオ・ペンロン
美術 : 古今田 李寶琳 王童
編集 : 陳勝昌
比キャスト
門栓 : 鈕承澤 ニュウ・ツェンズウ
李得勝 : 張世 チャン・スー
月香 : 曾慶瑜 ツェン・チンユー
文英 ウェン・イン
李昆 リー・コン
高明 カオ・ミン
第26回金馬奬最優秀助演男優賞 (張世)