李行
リー・シン
監督
我らの隣人(P32)を参照
解説
『あひるを飼う家』は、李行監督の代表作であると同時に『海辺の女たち』と並んで当時の台湾映画の「健康写実路線」を代表する作品である。劇中に農業指導員が登場するように、1960年代前半の台湾は、農業の改善と増産による経済発展を政策としていた。あひるの飼育もそうしたひとつであり、あひるの群れが移動する光景は街中でもよく見られたという。この作品はまさにそうした当時の政策を背景に映画化されたものである。しかも、実の親子ではない父親と娘の愛情を描く物語は、「健康写実路線」のひとつの柱である伝統的で健全なモラルの顕揚の根本にある家族愛に焦点を当て、主人公のあひるの飼育と隣家のそれという農業改善の対比と並んで、そうした家族愛が旅芸人の兄夫婦の生き方と対比させられている。李行監督が政策的な要素を巧みにアレンジして叙情的かつリアリスティックな映像で描いているのは見事というほかない。なおこの作品は侯孝賢監督の『恋恋風塵』(87)において野外映画会のシーンに引用されている。
物語
あひるの飼育で生計を立てるリン家。息子デンクーは父親の仕事を嫌って町で彫刻の勉強に励み、リンを手伝うのは美しく気立てのいい娘シャオユエ。だが、ふたりは実の親子ではなく、そのことを彼女は知らなかった。シャオユエには実の兄ツァウフウがいたが、彼は遊び人でリンを訪れては金をゆすっていた。農協のコンテストの日、リンのあひるは予選一位で通過するが、会場でツァウフウがシャオユエに目をつけたため、リンはあひるの群れを連れて帰り、優勝を隣家のライに譲ってしまう。ある日、親しい農家のチュン家をあひるの群れと一緒に訪れて戻ったリンを待っていたのは、シャオユエを連れていくというツァウフウだった。彼の脅しにあひるをすべて売った金を渡す約束をするリン。だが、隣家の息子から真実を知ったシャオユエは「あひるを売っても実の親子にはなれない」と自分からツァウフウのところにいく。そんなシャオユエを心配して金を持ってきたリンの姿を見て、ツァウフウも改心。シャオユエはリンととも家に戻る。
(村山)