まさしくこの理由によるためか、台湾ニューウェーヴの大部分はヒューマニズムの視点を採り入れたことで、こうした経験を厳粛に重厚に描くことになり、とくに特徴的なことは映画のなかの人物のほとんどが英雄ではない平凡な人物である点で、なかには社会的な弱者や被害者のことさえある。李祐寧『老兵の春』(84)の老兵、『坊やの人形』のサンドイッチマン、『少年』『ある女の一生』『嫁ぐ日』の平凡な家庭の主婦、『國四英雄傳』(85)の試験勉強に苦しめられる中高生、『超級市民』(85)の都会の片隅に生きる貧窮家庭、さらに楊徳昌が描く経済の嵐が吹き狂うなかの現代社会の孤独と挫折、また侯孝賢が描く政治社会の変動するなかでひっそりと消え去る主人公の生命と夢も挙げないわけにはいかない。台湾ニューウェーヴには歴史的時間・空間に生きた民衆の悲しみがあふれているのは疑う余地がなく、この角度から見ると台湾ニューウェーヴがつねに深い同情とヒューマニズムを根底にした映画製作がされており、歴史のなかの平凡で弱い立場の小人物の憂いや痛みの映像化が待たれていたこともうなずける。
しかし幸運なことは、台湾ニューウェーヴはこうした哀れむべき物語を描いてきたと同時に、朴訥で客観的な写実手法と美学を作りだし、こうした感情に溺れた作品に陥っていないことが挙げられる。『光陰的故事』から始まって、新人監督は習いたての手法で現実の情景を処理した。新人監督たちの技術はあるいは雑で未熟であったが、真面目な朴訥なスタイルを作り出した。ロングショッ