2 台湾映画の中の日本的なもの
日本的なものは日本語以外にも多く見られる。ひとつは音楽で、『冬冬の夏休み』(84)の最後には日本の小学唱歌「赤とんぼ」が使われていてまるで日本映画を見ているような錯覚を生じさせられるし、『悲情城市』(89)では共産主義者という容疑で銃殺されてゆく知識人たちがさいごに口ずさむ歌は当時台湾で流行していた日本の古い歌謡曲の「幌馬車の歌」である。
さらに印象的なのは日本家屋がふんだんに出てくることであろう。『冬冬の夏休み』は台北の小学生が夏休みを田舎の祖父の家で過ごす話だが、この祖父は医者で、田舎のその家は、いまでは日本でも滅多に見られなくなった日本独特の町医者の小病院である。一見洋風だが和洋折衷で床はスリッパで歩く。その風情が本当に懐かしい。じつはこの建物は実際に医者をしている脚本家の朱天文の祖父の家なのだそうである。