日本財団 図書館


の転換を図る必要がある。

かつて,アメリカで学校紛争や校内暴力,登校拒否などで学校が荒れた頃に,精神分析学者のグラッサーが『落伍者のない学校』という本を書いた。その中で彼は,落伍者のない学校にしていくうえで決定的にだいじなことは,一人ひとりの子どもに,自分なりにもっている個性的な何ものかを通して,自分の存在が親にとって,教師にとって,学級の友だちにとって意味のある,存在価値のある存在になっていることを実感させること,つまり自己価値感ないし自己存在感をもたせることだと論じている。この自己価値感を充足させることが根底にないと「生きる力」を培う学校に転換することもできないのではないか。

子どもたちが自分で学び,考える教育への転換を図るためには,考えたり,試したり失敗したりできるゆとりある教育活動を展開し,一人ひとりが大切にされ,教師と子どもたちが楽しく学べ,遊べる学校が必要である。そのためには,学校の機能を明確にして,家庭や地域社会も知恵を出し合って,家庭や地域社会ができること,本来なすべきことを引き受け,学校は何をなすべきかを考えていくことが大切である。

今の子どもたちは疲れている。親のライフスタイルが夜型になって,全体に睡眠時間が不足している傾向があるが,大学,高校の入試の在り方が改善されなければ問題は解決できないという声もある。

小学校から塾通いをし,夜10時過ぎに電車で帰宅し,また夜中まで勉強しなければならない現状を異常だと思わない人はいないであろう。しかし,現実には,多くの子どもたちがそのような状況におかれ,疲れ果て,心が抑圧されているのではないだろうか。いまの子どもたちは,学ぶことが楽しいと感じる前にまず疲れているというのが実態である。だから,「生きる力」をはぐくむために,子どもたちの生活に,まずゆとりをもたらしたいのである。つまり,じっくりと自分の頭で考えることができ,美しいものに感動したり,相手のことを思いやったりする「ゆとり」なのである。

そのような子どもたちのゆとりのある生活をもたらすためには,学校の教育も,親の意識,考え方も変わっていかなければならない。学校週5日制のねらいは,子どもたちを家庭生活の中に戻し,自由な時間を回復することにあった。ところが,根本にある価値観や意識が変わっていないと,空いた時間にまた塾や稽古事で遊ぶひまがないという状況になりかねない。子どもたちの家庭や地域社会での生活の重要性を親が認識し,自らの子どもにとって真に必要なものは何かを真剣に考えていく必要がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION