そこで『少年ジャンプ』は考えたんですよ。「キン肉マン」というのがございましたね。「キン肉マン」のキャラクターを読者から募集するんですよ。それでいいのは採用します。採用しまして、作家の先生と編集長がストーリーをつくってあげます。それを採用した場合は、名前が載るんです。子供はうれしいですよ。自分の名前が漫画に採用されて名前が載るんですから。
そこで考えてほしい。日本の明治5年から、学校はすばらしいものをつくりましたけれども、戦後50年間、個人名は残していないんですよ。いかがでしょうか。個人名を残した学校というのはございますか。第何期生、卒業生一同とか、記念品、記念樹とか記念作品は残しますけれども、個人名は残していませんよね。そうならば、なぜ施設が使ってくれた子供たちの名前を残してあげないのか。子供はうれしいですよ。私の名前があそこの青年の家に残っている、少年自然の家に残っているというと、また来ますよ。そういうまさにあなたが主人公ですよということの保障をどうしていくか。そういう施設の個性化というのは大事かなと思います。
3番目が、作家の世界に競争原理を導入したんですよ。ご承知のように、『少年サンデー』『マガジン』は昭和34年が創刊です。まさに青年の家と一緒なんです。『ジャンプ』は9年おくれてきます。昭和43年。そうすると、いい作家はみんないないんですよ。手塚治虫とか、石森章太郎とか、赤塚不二夫とか、ちばてつやとか、みんな連載を抱えている。でも、忙しくて描けない。
そこで編集長が新人作家を発掘する。チャンスを与える。そこでデビューしたのが「ハレンチ学園」の永井豪、「男一匹ガキ大将」の本宮ひろ志です。チャンスを与える。それでだめな場合は連載は打ち切りなんです。今でも『ジャンプ』は使っていますよ。悪い場合は、3回は連載できるんです。人気があれば20回連載できます。その基準が人気投票です。『ジャンプ』にはアンケートが入っております。今週よかった作品には丸をつけましょう。毎週葉書が5万通くるそうです。その中から3000通を抽出して集計する。「聖闘士星矢」1位とか、「ドラゴンボールZ」2位とか棒グラフが出るんです。それを作家の先生に見せる。だから、もう文句を言えないんですよ、読者が選んだベストテンですから。そうすると、偉い先生は嫌がるんです。新人はうれしいです。自分が頑張ればグラフが上がっていくんですから。言うならば、作家の世界に競争原理を導入した。
そうすると、230ぐらいある青年の家で、本当に競争原理があるのか。競争原理がないのは公務員と教員社会だけですよ。いい意味での競争原理を導入してほしい。そしてそれを判断する客観的なデータも欲しい。
4番目です。4番目が『少年ジャンプ』のキーワードと言います。彼らは、私たちは青少年に夢を与えているんだという自負心を持っているんです。夢を与える場合には、キーワードは3つあると言います。1つは友情。友情は尊いんだ。次、努力。努力すれば何とかなるんだ。3番目が勝利と申します。戦う。戦って達成感、やったんだという達成感を感じる。この3つが『少年ジャンプ』の経営哲学なんです。これは25年間変えていません。
ただし、編集長は作家の先生にこう言うそうです。先生、この3つのキーワードをお願いします。ただし、表現方法は先生にお任せしますよと言うんです。ということは、25年間、子供は変わっていますから。「ハレンチ学園」と本宮ひろ志さんの「男一匹ガキ大将」の描くものと「キン肉マン」「ドラゴンボールZ」「聖闘士星矢」、みんな違うでしょう。キャラクターが違うし、言葉も違う。それは子供が変わるから変えてほしいんですよ。言うならば、青年の家の経営哲学は変えてはいけません。だけれども、時代によっては、かつてはこの主催事業がよかったけれども今はだめだとか、ということがあります。経営理念と具体的な方法の2つを分けてほしいんです。
この3つの言葉というのは、昭和43年に小中学生約10万人にアンケートを配ったんですって。好きな言葉を1つ書いてください。それを集めたんです。集めた上位3つがその「友情」「努力」「勝利」ですって。今『ジャンプ』が落ち込みつつあるのは、この3つのキーワードが子どもの心にフィットしなくなったのかも知れません。