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2. 精神分裂病を持つ事例Aの受け入れ

 

一般住民側の精神障害者観や精神障害者との社会関係を「社会的距離」という側面から捉えて行く。「社会的距離」(social distance)とは、アメリカの社会学者Bogardusが操作化した概念であり、他集団に対する、社会関係の上で感じる同情的な理解(親近性)の程度を意味する。具体的には、ある集団の成員を心から受け入れることができるかを、「結婚によって親戚になれる」「隣人として町に入れる」などの程度差によって測ろうというものである。精神障害者とのさまざまな社会的距離が考慮されるが、ここでは、あまり親密でなくても、とにかくは地域に居場所を確保する社会的距離に注目し、後遺症状を持ちつつも安定した状態にある事例がしばしば遭遇するアパート入居問題を中心にその距離を測定することにした。

 

1) 社会的距離尺度

まず、精神分裂病を持つA氏について、以下のような事例提示を行った。

 

。??紜:

精神病院に入院したことのあるAさん(35歳、男性、独身)は、病気がよくなったので、主治医の勧めでアパートを借りて生活しようと考えましたが、大家さんから断られてしまいました。

Aさんの生活歴を紹介すると、Aさんは高校卒業後、県外の大学に進学しましたが、大学2年のとき人間関係で悩み、大学に行かなくなりました。心配した友人が訪問すると、部屋の中は乱雑で、あまり食事もとっていないようでした。さっそく家族に連絡をとりましたが、「自分のことがテレビで放送されている」「スパイにねらわれている」と言って、ひどくこわがり興奮していたそうです。

精神病院に3ヶ月入院し、その後、退院後は親元に帰って家族と一緒に暮らすようになりました。2回の再発のあと、障害を持つ人たちの通う作業所に行くようになってやっと笑顔も増えて来ました。しかし本人の話では、何をやるにもたいへん緊張するし、疲れるとのことです。たしかにAさんには、気力が続かず長時間の勤めには出られない後遺症が残っていますし、多少ハキハキしないところもあります。しかし、作業所には毎日行くことができます。人柄はまじめですし、買物や炊事などもできるのです。アパート入居を断わられてAさんは本当にくやしいと思ったそうです。

 

この事例に対して、「従来のイメージとの相違」「一般論としてアパート入居を断られたことに対する見解」「アパート生活をするための条件」を聞いた後に、前問の条件がそろった場合に、回答者自身の隣人としての受け入れ可能性を判断して貰った。

受け入れの程度としては、「困っているときにはできるだけ手を貸す(=0点)」「他の人と同じような近所付き合い(=1点)」「あまり関わらないようにする(=2点)」「他の場所に住むよう働きかける(=3点)」という4段階の選択肢を用意し、親密な受け入れ程小さな得点を与え、排除的で心的距離が拡大した回答には大きな得点を与えるようにした(社会

 

 

 

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