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参考資料

災害に強いまちづくり

(岩波書店 科学96年2月号より)

 

はじめに

皮肉にも同じ1月17日に起きた2つの地震一ノースリッジ地震(1994)と兵庫県南部地震(1995)―の比較からはっきりいえること、それは日本が都市防災の取組みにおいてはるかに立ち遅れた状態にあるということである。死者でいうと60人と6,000人、倒壊建物でいうと1万棟と20万棟、焼失面積でいうと3haと70ha、こうした被害の差はまさしく住宅や都市の構造の違いから生み出されたものといって過言ではない。とすれば、欧米の都市に負けないよう、都市そのものを地震に強くする努力が、わが国においても求められるということである。そこでここでは、その一助とするために、地震に強い防災都市計画のあり方を探ってみることにする。

 

防災都市計画の性格

まず、防災都市計画の性格を簡単に整理しておこう。

 

(1)最低限の要件を充足するための計画

都市計画の目標は、都市の「健全な発展」をはかることにある。ここにいう健全な発展というのは、人間らしい健康で文化的な生活を営みうるための環境をつくるということである。このためには、WHOが都市の基礎要件として定式化した安全性、健康位、利便性、快適性を都市に付与することが求められるが、このなかで安全性が最も重要なものであることはいうまでもない。「命あっての物種」という言葉があるように、安全があっての快適さであり便利さなのである。とすれば、都市にとっての最低限の要件である安全性を充足するための計画が、防災都市計画だということができる。憲法に定める生存権と密接にかかわった計画であるといってよい。

 

(2)偏向した開発を是正するための計画

災害は都市のもつ弱点を執拗なまでに突いてくる。自然の恩恵を享受しながらその厳しさに備えることを怠った場合、効率性を重んじるあまりに長期的な見通しを欠いた場合など、しっぺ返しとして大きな被害をもたらす。それだけに、反面教師としての性格をもっているのが災害で、都市化や都市計画のあり方を見直すチェックボードとしての役割を担っている。ところで、わが国の都市の近代化の過程をみると、急速な都市成長や目先の経済追求をはかるあまり、都市基盤の整備をはかることや自然との共生関係をつくりあげる努力を怠ってきた経緯があり、安全性のみならず健康性を

 

 

 

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