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木造住宅が、今回のような激しい揺れに「意外」と弱かったことが倒壊の原因であるが、その背景には、この地区の住宅が築後40-50年以上経過した、かなり古いものが多く(長田区では戦前の建築が半数を占めていた)、柱や土台などが腐食していたこと、屋根に台風対策として重い日本瓦を用い、さらにその下に上を敷いていたため屋根が非常に重い構造になっていたことなどがあげられる。

また、死亡者の内、60歳以上が53%、女性が60%に達しており、高齢者と女性の死亡者が多いことも特徴のひとつになっている。ニ階建ての家では一階が潰れたケースが多いが、高齢者は階段の昇り降りがないようにほとんど1階に寝ていたため下敷きになったのである。消防も普段の火災発生時の避難を考え、高齢者を1階に住まわせることを奨励していた。

もうひとつ注目される特徴は、生存救出率の時間依存性である。救出時間が早いほど生存率が高い傾向が顕著である。1日目の生存救出率は8割と高いが、2日目になると3割に急低下し、3日目には15%前後になり、4日目10%、5日目以降は数%に落ちてしまうのである。この傾向は、イタリア南部地震や唐山地震でも同じである。言い換えれば、地震発生後できるだけ24時間以内に救出することが重要であり、遅くとも3日以内に救出を完了するような計画をつくることが必要ということになる。

 

【全体調整の必要性と難しさ】

救出活動には、もうひとつの難しさがある。地震発生の翌日、私は、日米都市防災会議に出席するために来阪中だったロサンジェルス市消防局次長のボーデンさんと一緒に被災現場調査に入ったが、我々の目の前で展開されていた救出活動は、いかにもまとまりのないものであった。広域応援の消防、警察、自衛隊が入り交じって、サイレンを鳴らし、救出現場を探し右往左往しながら救出活動を展開していたからである。これを見たボーデンさんは、私に「ヘッドクオーター(災害対策本部)はどうしているのか」と尋ねたが、私は「うーん」と唸って、首をすくめる仕草をするしかなかった。どう見てもヘッドクオーターが全体を把握し、統制しているとは思えなかったからである。

救出活動は、他の応急対策と比べても、特に全体調整の必要性が高く、同時にそれが難しい活動である。地元の警察、応援の警察、常設の地元消防、消防団、応援の消防、自衛隊、地元市町といった異なる組織体が救出活動を実施するからである。さらに重機などが必要になれば、土木・建設業者などの参加を求めなければならない。これらの組織間の活動調整ができないと、救出箇所にダブリが出たり、救出活動が遅れるなどの支障が発生し、迅速な救出活動ができなくなる。

大量の救出案件を抱えた芦屋市では、市助役、警察署長、消防署長、自衛隊が当日夜に協議し、発災当日の夜には、警察署長を本部長とする救出本部を設置することに成功した。この救出本部長の下に、警察班、消防班、自衛隊班の3つの班を設置し、各班に市建築部の職員を配置するとともに、各地区毎に重機1台とその他の救出資機材を配置した。市建築部の職員が救出現場の案内や地元住民への対応などの支援的役割を担い成功したのである。救出本部では、1日2回、救出状況等を地図に落とすなどして情報の共有化を図るとともに、今後の救出活動方針の調整を行った。

大規模な救出活動の場合、現場への応援部隊の早期到着だけでなく、関係機関全体を調整できる体制をいかに迅速に確立できるかどうかが、非常に重要になるのである。

 

【消火活動】

地震による出火は地震発生時刻が早朝だった割に多く、しかも火のまわりが早かった。神戸市内だけでも午前6時までに60件の火災が起きている。神戸市消防局が最初に火災を覚知したのは、地震発生のわずか7分後の5時53分、長田消防署の隊長から「長田管内建物火災。長田区川西通付近炎上中。第2出動を要請する」という緊迫した通報によっ                       

 

 

 

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