操なデザインでは人々の気持ちも高揚しない。その意味で「路地尊」にみられる「一寺言問地区のまちづくり」の取り組みは,下町の地域性を活かした,人々の心意気がにじみでた都市のデザインだったといえる。
●環境資源の再評価・活用
今回の応募事例で顕著だったのは,自然水の災害時の利用だった。「農業用に掘り下げた井戸を私設消火栓とし活用」している大阪府松原市堀町会連合会の活動は,どのようなまちでも応用できる資源活用の例である。大震災での断水に備え,東京湾の海水を圧送管で内陸に導水し消火栓で放水するシステムを開発した船橋市の「海水を利用した大規模消火施設の整備」は,臨海都市ならでのダイナミックな自然水利用の実施例として評価されよう。他の地域からも井戸や湧水,河川や水路,流雪溝などの水を災害時に利用する新しいシステムの実施例が提示された。大阪市下水道局では,下水管渠を利用して仮設トイレを設置する「広域避難場所における仮設トイレ汚水受け入れ施設」を開発した。これは都市のインフラを多目的に利用する新しい防災システムの提案として注目される。このような事例から,阪神大震災以来,身近かにある多様な防災資源の存在と,その資源を活用しようとする大きな動きがあることが窺い知れるところとなった。このような動きは,単機能化し,資源の複合利用,有効活用という視点を失っている現代の水システムや都市のインフラのあり方を見直す気運が生まれてきたことを示唆するものだろう。
これからの防災まちづくりにおいては,既存のストックや環境資源を再評価し,それを活用していく視点が重要である。水のあり場所,避難や災害救護活動の基地となるオープンスペース,応急建設資材のあり場所,特殊な技術やノウハウを持っている人材,災害時に支援・協力が期待できる店舗や事業所…,などは町の貴重な防災資源である。これからの防災まちづくりには,災害時に役立つこのような身近な物的資源,人的資源を町に住む入自らが発見・発掘し,その価値を再評価し活用していくことが重要である。
●防災学習と啓発
防災意識は風化しやすい。したがって,防災学習と啓発をどのようにすすめていけばよいかは防災まちづくりの永遠の課題といえる。防災学習には,災害や防災に関する一般的・普遍的な知識の学習と地域固有の自然条件や社会的条件,住まい方や災害文化などに関する地域に根ざした学習とがある。現代の社会に欠けているのは,この地域に根ざした防災学習の方ではないだろうか。地域防災学習の望ましい姿は,親が子に伝え子が孫に伝える家族社会での学習や,過去の時代に見られた地域社会の営みの中で自然に学習。伝承できるシステムであろう。しかし社会構造が変質した現代では,このような学習機能は大きく低下してしまい,あまり多くを期待できない。したがってそれに替わる現代にふさわしい学習システムのあり方やシステムの構築が求められている。
昭和53年から始められた「国分寺市の市