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それぞれに活動が生まれた背景,活動を進めていく上での苦楽の物語があったにちがいない。これらの一つ一つの活動事例から,モデルとして防災のあり方やまちづくりの姿を学ぶことができる。大賞に選ばれた活動事例やリストに載った事例は,いずれも防災まちづくりのモデルとなる優れた活動事例である。紙面の都合で全部を紹介できないのが残念であるが,これらのいくつかの事例を踏まえて今後の防災まちづくりのあり方を整理してみたい。

 

●住民の参加と連携

防災やまちづくりの原点として大事なことは,自分のまちは自分たちで守るという自衛・自助の精神,ならびに支えあうという相互扶助や連帯の発想であろう。現代は共同体意識が低下しているといわれているが,近年の各種ボランティア活動の高まりに象徴されるように,新たなライフスタイルや意識の芽生えも見られている。岩手のスノーバスターズは過疎地域で展開される広域的な支え合いのシステム・参加と連携の好例である。そこには現代にふさわしい地についた暮らし方を求める志向と支えあう地域社会を再構築しようとする意志がみられる。このような志向をこれからのありうべき社会の方向として考えるならば,こうした芽生えを評価し,その動きを助長していかねばならない。また支えあう社会を志向するならば,かつて日本の風土・暮らし方の中にあった生活の知恵にも着目していく必要があるだろう。火の用心のシステムや出初め式などの行事は心に響くすぐれた広報システムであったはずだ。これらの伝統的な住まい方・行事も再評価し,そこから地域づくりや防災のあり方を学んでいくことが重要と考える。

 

●総合的な取り組み

これからの防災まちづくりには,総合的に取り組むことが求められよう。これまで防災というと地震,火災,洪水といった対策面が前面にでて,その活動は特化された狭い範囲のものになりがちであった。人々の暮らし方が多様化し,社会の仕組みもますます「複雑系」になっている現代においては,防災まちづくりにおいても多様な展開が求められる。これからは消防団活動や水防団活動などの自衛防災活動を地域の安全を支える基礎的な活動としながら,他の住民活動と連携し,ネットワークをつくり幅広い視野を持って活動していくことが重要ではないかと思う。高齢化が進む時代では「春日学区のまちづくり」に見られるように,福祉との連携が特に重要となろう。

ハードなまちづくりにおいては,アメニティや住環境の向上と併せてすすめることが重要である。何故なら生活環境が向上することは,防災上の安全性を向上させることにもつながるからだ。したがってこれからのまちづくりは防災とアメニティをセットとした複眼的な眼を持ってすすめることが重要な視点となる。留意したい点は,例えば,建築物や街路・広場などの都市空間を整備する場合には必ず防災の視点を入れていくこと,また備蓄施設や防災基地などの防災施設の整備をすすめる際には日常の生活空間としての機能やデザインにも十分配慮していくことである。画一的で無味乾

 

 

 

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