民防災まちづくり学校」は,大都市郊外・住宅都市の自治体が試みたこのような観点からの先駆的な防災学習の取り組みどいえる。この学校の設置の主旨は次のように示されている。「この学校は趣味などのように個人的な興味で終わるのではなく,地域社会における様々なまちづくりに積極的に関与していくための市民学習の機会を提供することを目的とし,防災やまちづくりに関する情報を直接提供し,地域での活動を参考とするとともに地域リーダーの育成を目的とする。」実は筆者も講師で呼ばれたことがあったが,これまでに770名の受講者があり,その卒業生が市内の各地域の防災まちづくりで活動しているという。したがってこの地域では,相当数のリーダーとなる人材が養成され, 人的パワーが醸成されていることになる。このような地域リーダーを養成する学習システムづくりは,これからの各地域のまちづくりに重要となる。ただこれからは,防災という狭い枠組みの中でなく,地域づくりという幅広い視野や枠組みの中で防災を位置づけていく必要がある。この場合,行政内部に蓄積されている様々な情報を開示・提供し,正しい地域理解と望ましい地域像の形成を啓発していくことが大切だ。
その他今回の選考では,一般市民に対する学習・啓発システムとして「音楽鑑賞と防災指導(堺市,高石市)」,「消防団詰め所のシャッターに児童のイラスト(群馬県吉井町)」などの新しい嗜好の啓発活動の事例も見られた。これらの啓発事業で大切なことは,防災に関わる大事な情報を人々の心にどう響かせ,伝達し,定着できるかということだろう。そこには情報の送り手と受け手とのあいだにヒューマンリレーションが成り立つものでなければならない。伝承の手段に関して,これまで記録集や記念碑的なものが多いが,語り部による民話のような物語性のある伝承方式にも大きな力があるように思える。その意味で,島原の市町村広域圏組合が主催した噴火災害の伝承劇「噴火と郷土の防人たち」の上演は優れた実施例と思われた。
5)おわりに
最終的に8活動団体が大賞に選ばれたが,選考委員にとって大変悩ましい作業であった。今回リストに載らなかった活動,まだ人々に知られていない活動も多く存在しているはずである。こうした活動事例を掘り起こし,広く紹介し,防災まちづくりモデルとして社会的に共有していくことは大切なことと思う。「防災まちづくり大賞」は時宜を得た事業と思われるので,今後もモデルを掘り尽くすまで継続していって欲しいと思う。