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過疎の豪雪地帯の雪下ろしを手伝うボランティア活動,「岩手県沢内村のスノーバスターズ」も印象に残った活動事例であった。このような中山間地域といわれる所では,息子や娘,若い世代がまちや都会にでてしまい,高齢化が進んで村は「おじいさんとおばあさんだけの世界」になり,村を維持する機能が低下し,暮らしがたち行かなくなくなっているところが少なくない。このままだとやがて村人はいなくなり,森林や耕作地は放棄され,荒廃した無人の山に変わっていくにちがいない。そんな構図が全国の農山村地域で生まれている。私が勤める大学がある山形県でも過疎とたたかう山村が多い。

この事例にエールを送りたくなる理由の一つは,何よりも,山深い豪雪地域で雪と格闘しながら住み続ける人々,元気な高齢者の人たちがいるということである。おそらくこの白魔といわれる雪との闘いを除けば,恵まれた自然の中で都会の人が知らない豊かな生活が営まれているのだろう。この事例にエールを送りたいもう一つの理由は,これら集落の人たちの生活を周りから支えている地域の若い人たちがいるということである。「雪下ろしの若者部隊」という意味であろうか,「スノーバスターズ」というネーミングもなかなか酒落ていて,はつらつとした印象を与えている。除雪サービス,パトロール,高齢者との交流が活動の内容だ。この活動がしなやかに見えるのは,福祉と防災の視点だけでなく,世代間・地域間の交流も生まれ,相互の啓発・活性化にも役立っている様子がうかがえるからである。この活動は昔の「結い」に替わる現代の新しいタイプの「結い」ではないだろうか。現在この手法が近隣市町村にもおよんで,広域的な連絡会や「雪かきサミット」を開催するところまで発展しているという。新しい防災ボランテイアのシステムが生まれ,定着しつつあるということだろう。山の暮らしを守ることは山を守ること,山を守ることは地域を守ること,地域を守ることは自分たちの暮らしを守ること,そんな地域づくりの「循環原理」がここにありそうだ。この地域では除雪を中心は、とした防災生活圏が生まれている。農山村地域はこれまで大きな変容を遂げ,過疎や高齢化などの深刻な課題を抱えているが,参加と連携によるこのようなネットワークづくりは,これからの農山地域の地域づくりのモデルとして高く評価されるものであろう。

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3)大都市の防災まちづくりの風景

大都市では,震災に対する防災がまちづくりの重要な課題である。日本の都市は,都市周辺に木造密集市街地を抱え,その整

 

 

 

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