制限水域の設定から、艦艇の集中・展開などによる示威行動、封鎖(臨検・拿捕)などの脅迫、威嚇による国家意志の強制など武力を背景に国家政策を強力に推進する道具として極めて政治的に利用されてきたが、取り得る選択幅の大きさや、事態の発展や緊迫化に応じたエスカレーションなど、海軍力運用のオプションは極めて大きく、この選択手段の豊富が海軍力の特徴である(22)。
おわりに
海洋力の特性の第1が輸送力であり、海洋の存在する所はどこへでも自由に安価に多量の物資を運びえることである。このため海洋国家は有無相通じる国際貿易、特に国際分業化を促進し、海洋国家間を相互依存の関係とする特徴がある。また、海洋国は国際交通路として海洋の平和を必要とし、海洋を介して結び付き世界的な同盟や協調体制を維持する傾向が強く、古来「海洋国は同盟国とともに戦う」と言われて来た。このような海洋国が示す経済的国際分業化と軍事的集団安全保障体制化という特性は、今後一層強まり国家戦略を論じる場合極めて重要な要素であるが、日本では利用しようとの着意は薄い。また、過去の歴史を見ると、日本は海洋国との同盟で栄え、海洋国と対立し大陸国と同盟した時に荒廃を招いた。すなわち、開国早々の日本は海洋国イギリスと同盟し、海洋国アメリカの援助を受けて日露戦争に勝ち、第1次世界大戦ではイギリスを助け大陸国のドイツを破り5大国、3大海軍国に成長した。しかし、第1次大戦中の1916年に大陸国ロシアと同盟(第4次日露協商)を結び、1918年には大陸国の中国と日華共同防敵軍事協定を締結してシベリアへ出兵、さらに日中戦争から抜け出そうとして大陸国ドイツと結んだ日独伊3国同盟で第2次大戦に引き込まれて敗北してしまった。しかし、第2次世界大戦に敗北すると日本は再び海洋国アメリカと結んだ日米安保条約によって現在の繁栄を得た。われわれは先人の選択-海洋国と結ばれた時には繁栄し、大陸国と結ばれた時には苦難の道を歩まなければならなかったという海から見た歴史の遺訓を忘れてはならないのではないであろうか。
註
1 アンソニー・ソコール(築上龍男訳)『海洋力』(恒文社、1965年)67-68頁。Anthony E. Sokol, Sea Power in the Nuclear Age(Public Affair Press,1961),pp.56-57.
2 アメリカ軍の急速展開能力については拙論「朝鮮戦争に見るアメリカの急速来援能力の数値的研究」(『防衛学研究、第4号、1990年11月)を参照。
3 Aviation Week(10 0ctober 1973),Army times(5 December 1973).