この論文の狙いは、係争によって得るところの最も少ない韓国が、客観的な立場から理論武装し、Honest brokerとしてこの地域で起こりうる将来の係争を未然に防止するし、国際社会において一定の発言力を維持することに狙いが置かれているように思われる。この点については筆者に直接見解をもとめるなりの調査が必要である。
2.論文要約と若干のコメント
現実かつ緊急の問題
論文はまず、北東アジアにおける海上の境界線画定問題が現実かつ緊急の問題であると指摘する。その理由は1994年の新海洋法条約が、1982年海洋法条約の深海底部分の改訂を決めたために、各国が批准をせまられていたという事情がある。とくに日中韓については先進出資国の特権的地位を維持するためには1996年までに同条約の加盟国となる必要があったのである。さらに日韓が1996年に排他的経済水域の設定を決定したことも、この問題が現実かつ緊急の問題となった理由に挙げられる。
境界線画定は極めて困難
しかしながら、この地域での境界線画定は極めて困難である。なぜならば解決の見込みのない領土問題が横たわっているからである。沿岸諸国の意見対立は深刻である。その上、地形は複雑であり海底の特性もはっきりしないのであるから、対立の根は深い。いずれは総ての沿岸諸国が新海洋法条約に加盟する見込みであるが、同条約の強制的紛争解決システムが発動される場合に重要になるのは同条約の「関連条項」であると筆者は指摘している。
適用可能な法
論文は次に適用可能な法について議論している。これによると新海洋法条約の大きな争点は、「公正の原則」を支持するグループと「等距離原則」を支持するグループの対立にあったという。この2つの考え方は全く相いれない主張であったから、結局は、一方の主張に肩入れした意見に落ち着くことはなく、思慮深い妥協がもたらされたというのである。それが、同条約74/83条である。
問題はこの妥協の産物である同条約74/83条には、境界線画定において規範となる基準が一切提示されていないことである。この条項は「排他的経済水域や大陸棚の境界線決定は...国際法に基づく合意によって行われるべきである」と、問題解決の到達点は示しながらも、実施にあたり、われわれが従うべき方法については何も規定していないのである。したがって、将来の北東アジアの紛争解決は慣習国際法によってなされることになるのであろう。
海岸の地形に関する議論
論文は次に海岸の地形に関する議論に移る。ここにおいての原則は検証すべきは陸地であり、海岸の地形であるとする「陸が海に優越」する古典的な原則である。次に、自然は造り変えることができないというルールを原則とすると筆者は論じている。