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今まで朝鮮半島の周辺諸国の軍事力の変化状況を、特に海軍力を中心に考察した。全世界的な次元での冷戦は終焉したが、東アジアではまだ冷戦が続いており、世界的レベルの軍備縮小は、逆説的にこの地域での軍備増強を引き起こしているという事実が確認できた。1990年代を迎え、国際戦略レベルでの最も大きな変化は、ソ連が崩壊したことによって生じた。即ち過去の冷戦時代に米国とソ連は、全世界的なレベルで競い合い、地球上のどの地域であっても、ソ連の支援を受けた勢力が勢いを増すことは、米国にとってはマイナスになり、逆の場合もまた然りであった。

その結果米ソ両国は、”全世界的次元での戦略的バランス”(Global Strategic Balance)という戦略原則を打ち出し、これに沿って行動してきた。だが、ソ連が崩壊し、戦略バランスをとる相手国がなくなったため、米国は今や世界的戦略バランスを気にかける必要はなくなった。即ち、世界各地の紛争の背後にはソ連がいたという仮説はこれ以上成り立たず、一部地域の国家が、ある特定の性向を持つ政派により掌握されたとしても、米国の戦略的利益とは関係がなくなったのである。おそらく米国は、周辺地域のいくつかの国がマルクス主義を信奉する集団に掌握されたとしても、特に関心を払わないであろう。そのような国を背後で支援する勢力は既に存在しないため、米国に脅威を与えるような国にはならないからである。

このように変化した戦略環境の中で米国は、次第にアジア地域から撤収しようとするであろう。この進行過程には様々な要因が存在するであろうが、米国は相対的に弱まっている国力と、また相対的に東アジアの戦略価値が低くなったことにより、次第にこの地域から撤収するであろうことは、既に後戻りできない事実となっている。即ち、東アジア地域の未来は、いったん崩壊し力は弱まったが、今でも整った装備を保有するロシアの軍事力に不安感を表明しつつも、海軍力増強に力を入れており、いつでも軍事超大国になり得る、経済的、技術的能力を持った日本、急速な産業化とともに特に海軍力の近代化に熱を挙げている中国、そして次第に東アジアに対する介入減少の方向に政策を推進するようになる米国等が、深刻な利益の対立もなく併存する状況になることと思われる。

朝鮮半島の状況は、全地球的な戦略状況と背馳する関係を未だに維持している。かつて米ソ間になくてはならなかった全地球的戦略バランスは、南北朝鮮の間になくてはならない地域的戦略バランス(Local Strategic Balance)とよく調和を成している。つまり、休戦ラインは、米ソ間で消滅してはならない戦争抑止ラインであり、同時に南北朝鮮間でも消えてはならない戦争抑止ラインである。ところで、ソ連が崩壊した後、米国は韓国に駐屯している前述の核兵器をすべて撤収することで朝鮮半島の休戦ラインが、これ以上米国―ソ連の戦略バランスのための抑止ラインではないということを行動で示した。62すなわち米国は、ソ連と共産主義が崩壊した局面で、朝鮮半島に戦術核兵器を配置する必要を、もはや

 

62李基鐸「北朝鮮が韓国の国防政策を干渉している」『韓国論壇』(1992年4月号),pp.22-23.

 

 

 

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