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高かった中ソ国境線の安定を確認し、中国は中ソ国境線に布陣した莫大な軍事力を弛緩するよい機会になった。特に1991年5月、ソ連はこれまで領土紛争の中心になっていたアムール川のダマンスキー島(中国名は真実島)と、ウスリー川の紛争地域を中国側に返還した。43そぅすることでソ連は、1960年代以降、紛争の火種になり続けていた領土を、事実上放棄したのであった。このように中国国境線でソ連と紛争の可能性がなくなった状況で、中国は陸軍の軍事力を100万人近くも縮減する等、いわゆる新国際秩序の軍備縮小ムードに加わった。だが、奇妙なことは、中国の軍事力を100万人も縮減したにもかかわらず、軍事費の支出は次第に増えているという事実である。

1988年に58,6億ドル、1990年に113億ドル、そして1991年には118,5億ドルと上昇し続けているのである。44中国は1989年以降、既に50%程度軍事力を増強しており、その結果、冷戦以後軍事費を大幅に増大していいる唯一の国になった。中国がこのように軍事力を縮減したにもかかわらず、軍事費を増強し続けた理由は簡単である。中国は労働集約的な軍事力から、技術及び資本集約的な、軍事力の現代化を行っているのである。特に中国は、旧ソ連から軍事兵器を輸入することに、相当関心を見せている。Su-24等の新鋭戦闘機を旧ソ連から購入し、MiG-31機を組み立て生産しており、45現在ウクライナの造船所で建造中の4万8,000トン級の大型Variyag航空母艦まで購入する予定であると知られている。46特に中国が持っている新鋭戦闘機は、その作戦範囲が日本列島まで含まれるという点において、47周辺国の脅威になる。中国はより現代化された弾頭ミサイル発射潜水艦を自力で建造する計画にあり、特に最近海軍力増強に拍車がかかっている。1993年現在、中国は総303万の兵力を保有しており、その内陸軍は230万人で、7,500-8,000台に及ぶタンク、1,200台の軽タンク、2,800両の装甲輸送車、14,500門の牽引砲、3,800門の連装砲等を装備している。48この軍事力はその武器体系の質的な面ではそれほど強力に見えないが、そ

 

43 IISS, The Military Balance 1991-1992 (London : IISS, 1992), p.149.

44 IISS, The Military Balance 1992-1993 (London : IISS, 1992), p.145.中国の軍事費はデータによりたいへん異なる。中国の発表通りなら、中国の国防費は韓国の国防費よりも少ない。だが実質的な中国の軍事費は、SIPRI報告書の主張通り、中国側が発表した額の2-4倍に達するはずだ。特に中国の場合は80年代末になって初めて軍事費に関する資料を公開するようになった。

45 Jane's Defense Weekly, 1992. 10. 10, p. 18.

46 この航空母艦は1992年秋現在、約70パーセント完成しており、中国、ロシア側からの資金がない限り完成は危ういとの報道がされている。中国が空母購入に成功した場合、どのような搭載機を購入すべきかはまだ決まっていない。

47 Su-27,Mig-31機は,それぞれ作戦を範囲が3,000km,2,200kmに及ぶ。

48 The Military Balance 1992-1993 (London : IISS, 1992), p.145

 

 

 

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