にもかかわらず沖縄トラフ(舟状海盆)は日中間及び日韓間の境界画定に関係の深い地位を占めている(地図2参照)。沖縄トラフは、東シナ海の日中中間線より遥か東側に位置しているため、仮に境界画定における地理的要素として考慮されたならば境界線はかなり日本沿岸に寄ったところで引かれることになろう。また鳥島及び男女群島が沖縄トラフの西側に位置することから、韓国は境界線を南に広げることになる。領有権について日中間で争いのある尖閣諸島が中国領になれば、その東に位置する沖縄トラフが日中間の境界線になる可能性もある。しかし現実にはこうした地形的要素が境界画定に及ぼす影響は低くなっている。
7.海岸線の地理
日本の主張する中間線による境界画定は唯一の方法ではなく、海岸線の長さの対比による分割等の前例もあり、この場合境界線は中間より日本寄りとなることもある。最近の傾向として自然延長論は広い支持を得ていないが、海岸線の長さで中間線を調整する方法は今後注目されるだろう。中国が自然延長論に基づいて南シナ海、黄海及び東シナ海で展開した主張は、トンキン湾における越、南沙諸島におけるフィリピンの主張と同様、最近弱まっている。
トンキン湾では中越国境線をそのまま南に引いた1887年ラインが中越間の海域を分かっているが(地図1参照)、その法的効力は疑問がある。今後、海南島の長い海岸線を考慮して1887年ラインが西側に移動するようなことになれば、中間線原則に則った解決と言える。
黄海における韓中間の境界は確立していないが、中国は黄河のシルト(沈泥)が溜まる線を境界と主張しており、右は韓中間を2対1で中間より韓国寄りに分けることになる。こうした地形学的な自然延長論は支持を得にくい。
南シナ海の島嶼部は、その領有権が決まらない限り境界は画定しない。複数の国が領有権を有する場合境界は複雑になる虞があるが、その場合であっても領有権を有する国の海岸線の長さによる画定が行われるだろう。
国際約束や第三者による紛争解決の例を見ると、海岸線から遠く離れた小さな島が境界画定に及ぼす影響は小さい。一般的に言って、東アジア中部海域の境界画定がもし行われるとすると、小さな島は無視するかひとまとめにした後に引かれる中間線によるだろう。
海岸線の地理的条件は境界画定のための主要な要素となっている。沿海諸国の関心の一つは他国の干渉を受けない航行の自由であるが、世界の海域で行われた約140の境界画定の殆どの場合において、沿海諸国の公海等自由な海域へのアクセスが確保されている。