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4.礁

国連海洋法条約は初めて”礁”について言及し、礁の海側の低潮線が領海の幅を測定する基線となる旨規定した。右は多くの礁が点在する南シナ海における境界画定に影響を与えるが、それは局地的なものにとどまろう。

 

5.島やその他の領土に基づかない歴史的主張

海洋法条約はハドソン湾のような”歴史的湾”につき規定している(同条約第10条6項)が、南シナ海は右に該当するとは思えない。歴史的湾の概念は、恐らく1958年に採択された領海及び接続水域に関する条約により3海里という狭隘な領海が設定された際、広大な閉じた領域の資源に対する沿岸国の関心により育まれたものであろう。この関心は、沿岸国が資源に対し主権的権利を有する水域が3海里から200海里にまで延長されたことで衰退した。従って歴史的湾の存在意義も失われた。58年条約を敷衍した82年の海洋法条約が歴史的湾の規定を残したのは国際法として保持したと言うより単に原則を留めたに過ぎないのであろう。

他方、歴史的湾は内水であるから、沿岸国は外国船舶等の航行の自由すら制限できる。資源管轄権の観点は他のレジームに取って代わられても歴史的湾の内水としての意義は残る。しかし歴史的湾として主張するためには当該国が排他的な管轄権を継続的に行使したと証明する必要があり、この点につき例えば国際的な航行等が活発な南シナ海は該当し得なくなる。

過去の先例を見る限り、歴史的湾が境界画定に及ぼす影響は大きいとは言えない(*ICJのチュニジア/リビア大陸棚事件及びメイン湾境界画定事件)。

 

6.地質学及び地形学

海洋法条約の境界画定に関する規定ぶりは曖昧である。特に大陸棚に関して、地質学や地形学上の要素を排除していないが、境界画定の基盤となるのは沿岸の地理である。海洋法条約はEEZを200海里と言う距離によってのみ規定しており、東アジア中部海域は近隣国のどこかのEEZである。理論的には大陸棚は海面上の境界画定と異なった境界線が引かれることとなる(*ICJのヤンメイエン事件)が、海洋法条約は同じ規定ぶりを適用しており、両者が一致することを想定している。

大陸棚の幅は基線から最低200海里と定めているが、大陸棚の地質及び地形如何によって200海里を越える場合もあると規定している(同条約第76条)。しかし、同条10項ではこの条の規定が境界画定に影響を与えない旨明記していることから地質学及び地形学上の要素が境界画定に果たす役割は小さいだろう。

 

 

 

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