3.海洋法条約によって許容されない水域
東アジア海域における境界画定は、通常海洋法条約で認められていない沿海国の主張を考慮する必要があるかもしれない。例えば北朝鮮は日本海に50海里の軍事水域を、また中国は東シナ海において軍事水域及び漁業水域を主張している。更に中国及び韓国は、海洋法条約の無害通航を定めた規定(条約第17〜32条)にも関わらず、自国の領海を外国船が通過する際の事前通報を求めている。同様に日本は核搭載船の領海通過を禁じている。こうした国際法上当然とは言えない主張も、しかし二国間で何らかの合意に達する場合がある。例えばソ連は前述の北朝鮮の水域を黙認したが、北朝鮮は代わりにソ連のピョートル大帝湾の歴史的湾としての地位を黙認した。東シナ海における中日韓の境界画定は、共同管理も含めた特別な方法が必要になるかもしれない。その場合でも、右は第三国の通航権等に影響を与えることはない。
4.将来の解決
この地域の諸国が国連海洋法条約に加盟することは境界画定の解決を促進するかもしれない。条約は、加盟するために一定の国内法整備を行うことを義務づけている上、交渉等を通じた措置による境界画定を奨励している(条約第279〜287条)。右は、法的解決を好まない東アジア中部諸国にとり受け入れやすいものである。
また条約は管轄権を有する裁判所の決定に紛争当事国が従うことを義務づける一方で、適用については一定の選択的除外を与えている(同条約第287条)。「領土についての主権その他の権利に関する未解決の紛争」は調停への付託から除外するとの条約の規定は、境界画定問題について拘束力のある紛争解決手段が適用できないとの趣旨ではない。東アジア中部諸国は、交渉が失敗した時、第三者による拘束力を持った解決より海洋法条約に則った調停の方を好むと思われる。
第二次大戦以来、南北朝鮮や中台関係のように沿海国の関係は芳しいものではなかったが、ソ連の崩壊以後、南北朝鮮対話や中台接近等地域の関係改善は顕著であり、境界画定に関しても対話や解決の兆しが見える。
例えばインドネシアは長年にわたり、領土問題や境界画定を棚上げした形での南シナ海における紛争解決に努力してきた。主権や境界という困難な要素を考えた場合、こうした境界に基づかない(non-boundary-based)解決こそ最も可能性があるかもしれない。ペルシャ湾からの石油の航路でもある南シナ海における海難による石油流出等の環境問題或いは枯渇する漁業資源の問題に関して、境界等の問題に触れない形での地域的取決めを結ぶことはできないだろうか。