ジョセフ・ナイは米国の対中政策が国内政治の人質になってはならないと述べている。ナイは大統領に対して最初の任期中に提言された4部で構成される対中戦略を維持することを提言している。即ち、米軍の前方プレゼンスの維持、多国間制度の発展、日本に対する支持及び中国と何らかの共通な立場の構築の4つである。
中国に日本カードを切ることを許さない形で、大統領が日米安保条約を再定義したことに満足して、ナイは現行の包囲政策に妥当性を見出すべく挑んでいる。彼は露骨な包囲政策は効果がないと考えており、これに関して次の3つを欠点として指摘している。即ち、中国の強大さを誇張していること、包囲が東アジアの諸国の間で人気がないこと、そして中国が友好的な国家として発展しうるのに、近い将来同一の立場で中国と対処する上での柔軟性に制約を加えることになるという3点である。
陪審も終わっていないのに何故中国を悪の帝国と了見するのか?包囲政策の行きつく先は、もし我々が慎重でなければ20世紀における第2次冷戦を引起こしかねない不和の種を発芽させることである。今度は合衆国と中華人民共和国との対立であり、その主要戦略が対立する戦場は欧州ではなく、東アジアであろう。我々は冷戦が欧州に何をもたらしたかを目の当りにしたし、たとえ何ももたらさなかったにせよ、東アジアで冷戦が再発することだけは防がなければならない。更なる冷戦は、アジア太平洋全域を地獄の混沌にひきずりこみかねない。この冷戦のシナリオには勝者はなく、敗者のみとなろう。
第2次冷戦を回避できるという点で、建設的な中国の取り込み策の方が、包囲策よりより妥当な政策である。南シナ海や東シナ海において独善的な政策があるにしても、変化した中国、即ち中央統制経済から市場経済へ移行した中国、共産党独裁支配からより緩やかな政治システムへ立場を移行した中国、国際慣行に従って行動することを誓った中国のことを忘れてはならない。幼時期にあるとはいえ、形の上での民主主義は根付いている。
大事なことは、中国が国際社会において責任ある一員として見なされることを望んでいるということを忘れないことである。中国がより豊かになればそれ相応に賢明になってくれるであろう。繁栄の追求という面で中国は、世界の経済、金融、技術制度の中に更に織り込まれてゆくことになろう。中国はまた、自国が過去50年にわたって自尊心を傷つけられた大国であったことを知っており、貧困と孤立主義からの脱脚を決意している。これは、同国の経済の発展が続いた場合にのみ可能であり、そのことは、中国が輸出を行こない、外国からの投資を受けられることを意味する。
当然の帰結として、中国が民主的な制度を再建した上でうまく政治的駆引きを行こなえ