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ばならない。冷戦時代の相互確証破壊を生き延びさせてはならず、両国は、いずれも奇襲は企てないとする相互確証信頼についての確信を持たなければならない。

 

○米国

米国は、アジアに対する総合政策がないということで批判されてきた。かなりの期間、多くの人達が米国は台湾海峡の差迫った紛争から手を引くであろうと考えていた。1996年3月の最終段階になってようやく台湾海峡に姿を現わした米国は、同国がこの地域における重要な戦略上のバランサーであると信じていた多くの人達にとって救いの神となった。しかし、米国にとって、アジア太平洋地域へ介入することの優先度は非軍事的な面により大きな重点が置かれており、経済協力、人権問題及び環境問題が軍事問題に優先している。ベトナム戦争での敗戦及びその後のスビック湾からの撤退以降、軍事的に見て、米国の戦略的コミットメントの全盛期はすでに過去のものである。結局、米国をスビック湾から追い出したものは共産主義でもピナッポ火山でもなく、それは世界の防衛を背負う米国をこれ以上支え切れなくなった同国の財政難であった。ソ連の崩壊は米国の政策転換に伴う痛みを緩らげる効果があった。

アジア太平洋地域における米国の軍事プレゼンスはいくつもの条約にかかっており、同国は、日本、フィリピン、台湾、シンガポール、韓国、タイ、オーストラリア及びニュージーランドの各国と特別な条約関係を維持している。これらの条約の価値については、かってフィリピンが見出したように、時には疑問が呈されることもある。米比条約はフィリピンに対する外部勢力による侵入が生じた場合の軍事支援を規定していたが、1995年2月中国がミスチーフ礁を占領した時、米国は支援に来なかった。韓国及び日本からの更なる兵力撤退交渉は、大統領選挙に続いて起こりそうである。そのような交渉は米国の撤退症候か連帯の弱化と受取られる。

米軍のアジア太平洋地域からの全面撤退は次の5年間には考えられないが、そのための準備は急がれるであろう。米国の安全保障上の利益が世界的に強力で、関与したまま続くことが重要であるが、強い経済力なくして世界中に自国だけで高度の前方展開を常続的に維持することは困難であろう。米国が主力であり続けるにしても、相対的には同国のアジア太平洋におけるパワーは低下するであろう。この低下は、この地域の安全保障にとってある意味を持つであろう。

クリントン大統領が1つの中国政策を強め、中途半端な包囲政策から慎重に遠ざかるこ

 

 

 

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