国の強力な経済成長を支える安定した地域環境を必要とする一方で、南シナ海における主権を放棄することはありそうにない。南シナ海の問題を、他の戦略目標とリンクさせない、結びつけないとするこの最近の政策には交渉の余地はなさそうである。
中国をどのように--大国として扱うべきか?これに対する最終解答を与えられる人はノーベル賞に値する。中国をエンゲージする現在の政策は、中国の経済政策をよりオープンにし、自由化する上で極めて順調に行こなわれているようである。しかし、この中国に対するエンゲージメント政策は、中国軍の近代化計画にブレーキをかけるどころか、中国政府の南シナ海政策を転換させることなく、また、人権政策のより一層の透明化を進めることもなかった。中国を主な利益と提携させようとする政策もまた満足すべき成果を収めてはいない。中国に対し、国際関係上受入れられたルールに従う、例えば国策としての武力を放棄するよう説得するやり方は、南シナ海に関する限り成功とは言い難い。別の言い方をするならば、中国を国際社会の責任ある一員とすることは、建設的なエンゲージメント政策の基本理念であった。これについての判断が正しかったか否かについては今でも別かれるところである。
我々の判断では、中国は国際社会の責任ある一員であり、いくつかの基本的な国際ルールを受入れるために、今でも懸命に努力している。これが南シナ海の問題となると、中国は言ったことを守らず、また言うことと意味することとは異なるため、約束を交すには足りない相手である。中国自身が自国の行動基準に反した行動をとるため、南シナ海で次にどのような行動をとるか予測することもむづかしくなっている。この不確実性がこの地域の不安定の根源である。
しかし、一方、中国を包囲する政策も成功しそうにない。まず第1に、今から10年後には世界最大の経済になりそうな国に12億人の敵をつくることは誰の利益にもならない。第2にアジアの諸国はその中の何か国かは中国との領土問題を抱えるかも知れず、味方することも中国を孤立化させることもなさそうである。その他の戦略的利益はもっと重要である。アジア諸国は、自国の国益を脅かさない中国、同盟国ではなくとも友好国としての中国、そして米国の優位に立ち向えると信じられる中国を望んでいる。この地域は自国への大量難民の流入を避けるため、自国民を食べさせることのできる安定した中国を欲している。中国を封じ込めることは、文明社会を崩壊させ、何百万人という難民を発生させることになろう。欧州や米国はその難民にとって遠すぎるが、日本や東南アジアの立場は異なる。