費の急激な削減と国内の政治的、経済的混乱のために、海外へ兵力を展開させる余裕はほとんどなくなっている。また、かつての共産党政権時代への回帰願望も依然として強く、ロシア大国主義への願望と対西側強硬路線が国民の幅広い支持を集めつつあるが、国内の混乱は当分続きそうである。
いずれにせよロシアには軍事力だけではなく、それを支える技術力や経済力を含めた総合的な国力を生み出す基盤がないために、かつてのソ連のような大国として復活することは当分ありそうにない。
南シナ海をめぐる全般情勢
南シナ海の情勢を全般的に眺めた場合、目につくことは、中国の進出と周辺諸国における海軍近代化志向であり、更にこれらによって引き起こされるかもしれない紛争に対する懸念である。
最近厳しい経済混乱に直面しているが、これまでアジア・太平洋地域の国々は目覚ましい経済発展を遂げ、そのほとんどは、海外からのエネルギーや資源の輸入、製品の輸出など海上輸送に大きく依存している。各国は海を自由に利用し、安全に航行してきたし、この航行の自由を確保することは、その生存と繁栄を海上交通に依存する国々にとって、今後死活的に重要な問題である。大平洋とインド洋を結ぶシーレーンが南シナ海を通っており、領有権問題に無関係の第三国にとっても、この海域の安定は無視しえない問題である。
イラン・イラク戦争の際には、第三国のタンカーなどが紛争に巻きこまれ、長期間立ち往生しただけでなく、船舶や乗員に被害が続出し、更に船舶の被害により付近に大規模な環境破壊をも引き起こした。緊張が高まったり紛争が発生しても、広い海域であればそこを迂回することによってシーレーンが遮断されることはない。しかし、迂回による余分な時間と運賃の増加、保険料の急騰だけでなく心理的な影響によって、紛争当事国以外の国々の経済も深刻な影響を受けることは必至である。
南シナ海の戦略環境を不安定にしている最大の原因は中国の進出である。同国を南シナ海へ駆り立てる主な動機の一つは、将来的な食料・エネルギー不足であり、冷戦後減少した米露両国の南シナ海へのプレゼンスの空隙を埋めるように、急速に拡充しつつある海軍力を正面に、この海域に進出してきた。
中国の軍事力は、外洋海軍としての能力はさておき、南シナ海周辺諸国の中では突出しており、パラセル、スプラトリー両諸島への強引な進出が引き金となって、関係諸国が海軍の近代化を志向するようになったと考えられる。
中国は1992年2月、パラセル、スプラトリー両諸島だけでなく尖閣列島まで自国領土と明記した新領海法を公布し、その領海を侵犯したものは武力で排除するとさえ宣言した。また、空母を中心とする外洋型海軍の建設は、中国にと