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1998年版:南シナ海のシーパワー・バランス

沿岸諸国の状況と米豪のプレゼンス

 

川村 純彦(元統合幕僚学校副校長・海将補)

 

本稿では、わが国の繁栄と安全に重大な影響を与える可能性を持つ南シナ海を巡るシーパワー・バランスについて考察する。

 

南シナ海は、北から時計回りに台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、カンボジア、ベトナム及び中国の10地域・国家に囲まれた海域で、この海域内にプラタス(東沙)諸島、パラセル(中沙)諸島及びスプラトリー(南沙)諸島の3グループの群島が存在する。これらの諸島は、標高1メートル前後のサンゴ礁で無人の小島である。

プラタス諸島については中国が実効支配し領有権が確定しているが、パラセル諸島は1974年以来中国が実質的に支配しているものの、ベトナムも領有権を主張しており、スプラトリー諸島については中国とベトナムが同諸島全域の領有権を、またフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾が一部の領有権を主張している。海底探査の結果、南シナ海には石油、天然ガスといった天然資源が眠っていることが判明しており、周辺の諸国がそれぞれに領有権を主張する理由は、これらの島々そのものの価値よりも、その周辺海域に存在する海底資源あるいは漁業資源を独占する狙いからであろう。

また、これらの諸島の近くを北東アジアと中東・欧州・東南アジアを結ぶ重要なシーレーンが通っている。

南シナ海のシーパワー・バランスを考察するに当たっては、周辺諸国は勿論であるが、見落としてならないのは米豪の2カ国の存在である。アジア・太平洋地域のほとんどの国々は、紛争の発生を抑止し、地域の安定を維持するために米軍の確固たるプレゼンスが維持されることを望んでおり、アメリカも引き続き約10万の兵力を東アジアに駐留させることを公式に確認した。

一方、オーストラリアは、FPDA(5カ国防衛協定。イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールが加盟)に加えてASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との2国間の防衛協力を発展させるため積極的に取り組んできており、ASEAN地域内に確固たるプレゼンスを保っているので、今後もオーストラリアとASEANの関係は更に緊密化するものと考えられる。

一方ソ連は、冷戦中カムラン湾に前進基地を獲得してこの地域でアメリカと激しく勢力を争っていたが、今では15の民族共和国に分解して、ロシアという広大な国土を持つ民族国家として生き残った。しかしロシアは、冷戦後の軍事

 

 

 

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