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現在までのところ、そして予見し得る将来、中国は既成事実を受け入れているようである。中国は、敵対国の計り知れない感情を逆なでするような急進的な政策を採ったり、東南アジア地域の秩序と安定を侵害しなければならないプレッシャーは受けてはいない。中国が南沙諸島をめぐる係争相手国を撤退させることを目的とした武力行使をしないのは、武力行使が平和共存政策の追求、という中国の基本原則と矛盾するからである。さらに、中国は周辺諸国との良好な近隣関係の促進を望んでいるのである。(40)

 

1988年3月の南沙諸島紛争で中国がベトナムに対して武力を行使した理由は、中国からすれば、ベトナムが反中国政策を採ったことである。1990年初頭以来、両国ともバンダン平和共存5原則に基づき正常な関係の改善に努めてきた。関係改善への意図は、両国が1993年10月に領土紛争の平和的解決のための基本原則合意書に調印したことから明らかである。(41)

 

現在中国が重視しているのは、ベトナムからの戦略・安全保障上の脅威でもなければ、既に無力化している越ソ軍事同盟でもなく、グローバル経済と技術の進歩である。中国の経済発展が先進国およびNIES諸国に遅れている現在、このことは一層重要になっている。(42)したがって、中国の挑戦は地政学・軍事的次元、あるいは南シナ海における大国のプレゼンスから生じているのではなく、自国の遅れた農村経済から生じているのである。このように、中国の大いなる挑戦は、いかにしてできるだけ急速に経済の分野で追いつくか、ということである。第二に、中国は武力が必要な場合の費用便益計算を考慮しなくてはならない。武力行使は必要か。南沙諸島で大規模な油田が発見されなければ、政治的にも兵站の面でも、南沙諸島で武力行使に踏み切ることは高くつくのである。なぜなら、南沙諸島は海南島から1000キロ以上も離れているからである。第三に、武力行使はトウの4つの近代化計画を損ねるであろう。なぜなら、資源は経済発展にではなく、戦争に使用されてしまうからである。第四に、武力行使は1992年のASEANポスト首脳会議で発表された銭期真外相の声明に矛盾する。この声明によれば、中国は南沙諸島問題を平和裏に解決したいと望んでいるのである。実際、武力行使はASEAN諸国の間に懸念と不安を巻き起こし、中国とASEANの関係を損ねるであろう。もし中国が第三世界のリーダーとなり、非同盟運動の重要な役割を果たしたければ、非同盟運動の現会長であるイン

 

 

 

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