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ドネシアのスハルト大統領の強い支持が必要である。第五に、中国の高圧的態度と海軍近代化は、ASEAN諸国のみならず、日本の再軍備をも招き兼ねない。日本がどの程度再軍備に傾倒するかは、中国の意図、および特に尖閣諸島をめぐる領土問題に依存する。したがって、中国の対南沙諸島政策は、中国の対日関係および尖閣諸島問題のテストケースとして日本に利用される可能性がある。第六に、クリントン大統領は、米国は南沙諸島の領土問題に直接的に介入しないことを表明した。しかし、米国は中国が南シナ海の領土問題解決の手段として武力を行使するのを黙認してはいないであろう。(43)米中関係がぎくしゃくしている現在、中国は南シナ海で武力を行使してこれ以上対米関係を悪化させたくはないであろう。人権問題、対パキスタンミサイル技術移転問題、対中東武器輸出問題、核実験に対する非協力的態度などをめぐり、両国関係は既に困難な状態にある。第七に、東南アジアの安全保障は、1990年代の初めから中国に有利な形で改善してきた。ロシアと米国が南シナ海の領土紛争に直接介入しなくなった以上、中国の安全保障・戦略的利害は深刻な脅威を受けないであろう。したがって、中国はベトナムのような係争相手国に対して強硬策と採らねばぼらないほどのプレッシャーを受けているわけではない。

 

近い将来の中国の対南沙諸島政策においては、戦争のシナリオの見込みは薄いと見てよいであろう。中国のとるべき最善の選択は、緊張緩和と融和策であり、そしておそらく、紛争相手国に対する「温和な」態度であろう。主権問題を棚上げにし、相互の利益に基づいた共同開発プロジェクトを促進したい、という言葉の中には中国の誠実さが表れている。ここから分かることは、1960年代の地政学・安全保障上の関心から1990年代の「経済中心」への根本的な転換である。この転換は中国自身を含め、全ての国家にとって良い結果をもたらすに違いない。結論を言えば、平和という果実は、戦争という腐敗物よりも好ましいのである。

 

 

 

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