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したとされる49人のフィリピン人漁師を拿捕した。マニラは激しく抗議し、マレーシア当局を不法拿捕の理由で非難した。これら漁師達の国籍はカラヤン海の範囲にあるとされた。(35)この事件はマレーシアの他のASEAN諸国との領土紛争(例えば、サバをめぐるフィリピンとの係争、ブルネイ、インドネシア、シンガポールとの係争など)解決の試みを複雑にする可能性がある。

 

あるタイの学者の認識では、中国の高圧的な態度は、中国の「帝国主義的」意図に対する疑いをもたらした、ということだ。彼によれば、「中国は主張の根拠を、紀元前221年以来中国が自分自身を「中華王国あるいは中央王国(Cemtral Realm)」と見なし、その領土はアンナム(インドネシア)と南シナ海まで含むとしてきた、という事実に置いている。」これは中国が再三非難してきた旗を靡かせる王国の「帝国主義者」(36)の態度である。万が一北京とフィリピンの間で「カラヤン」島を巡る軍事衝突、台湾とフィリピンとの間で排他的経済水域を巡る紛争(この可能性は薄いが)が起きた場合、米国とフィリピンの間のマニラ条約を理由に、米国が巻き込まれる可能性がある。フィリピンが、マニラ条約(1954年)の忠実な加盟国であることを理由にクリントン政権に軍事支援を要請する可能性もある。

 

実際、フィリピンは、南沙諸島から第三国の軍隊を撤退させたい場合の米国の支援を要請したことがある。したがって、東南アジアのパワーバランスを崩さないよう、中国は慎重にならなければならない。さもなくば、米国は同地域でのプレゼンスを再び活性化する、などの結果をもたらすことになる。中国の東南アジアに対する脅威の増大は、米国の東南アジアの安全保障上の役割の再強化をもたらす可能性がある。東南アジアの一部の諸国では、米国の安全保障の役割に対する認識は既に変化している。例えば、1991年、シンガポール政府は、米国に自国の軍事施設利用を認める合意書に署名したことを表明した。当初、マレーシアとインドネシアの反応は否定的であった。しかし、それ以来両国の態度は変化しており、今では米国戦艦と戦闘機を歓迎しており、自国の軍事施設利用を認めている。(37)無論、米国の介入によって日本が米国の対北京「統一戦線」(38)を後方支援するという形で安全保障の枠組の再編が行なわれるようなシナリオを、中国が望んでいるわけではない。

 

1989年3月、ベトナムは中国の挑戦への対応、南沙諸島防衛のため、自国の海・空軍増強計画を発表した。このように、中国の高圧的態度は、東南アジア諸国の中に不

 

 

 

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