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国ではない。南シナ海をめぐる中国の行動には、敵対国に対応する際の中国の自信の高まりが明確に表れている。過去の経験から判断すると、中国が自国の対外政策目的の達成の手段として武力を行使することはないと考えられる。では、中国のパワーおよび南シナ海での行動の本質は何であろうか。中国は南シナ海の平和を求めているのであろうか、それとも支配を求めているのであろうか。

 

中国政府はASEAN諸国に対して中国が平和を求めていることを繰り返し述べてきたが、1988年3月の対ベトナム武力行使、1989年6月の天安門事件、南シナ海での最近の高圧的な態度は、中国の平和を愛する国家としてのイメージを傷つけることとなった。中国が平和を求めていることに疑いはなく、中国はバンダン平和共存五原則に基づく良好な近隣関係をASEAN諸国との間で維持したいと考えている。しかし、南シナ海での中国の高圧的態度、およびPLAN近代化への飽くなき努力から判断して、必ずしも全てのASEAN諸国の指導者達が中国の平和への意思を信用しているわけではない。インドネシア海軍司令官スワノは次のように述べた。「中国の南沙諸島での行動は、東南アジア諸国、特にインドネシアに警告を発することとなった。なぜなら、我が軍は今でも北京をASEANへの脅威として認識しているからである。」(29)インドネシア海軍司令官によれば、「増強された南シナ海の中国艦隊は、インドネシアと他の東南アジア諸国にとって安全保障上の脅威である。」(30)マレーシアもまた、南沙諸島での中国の動きを懸念していた。(31)マレーシアのマハティール首相は、中国は予見し得る将来に中国がマレーシアの安全保障の深刻な脅威になることははい、としている。しかし、だからと言ってマレーシアが防衛を強化し、南沙諸島の珊瑚礁でのプレゼンスを強化し、ポスト冷戦の地域的な戦略環境の変化を不確実性を予期して防衛費全体を増額することが避けられるわけではない。実際、フィリピンのラモス大統領自身の言葉によれば、中国の高圧的態度は東南アジアに「小規模の軍備競争」(32)のをもたらした。中国の挑戦に対応するに当たり、ラモス大統領は薄弱な自国の海軍の増強を表明した。(33)例えば、同大統領は、海軍のパトロール艇にExocetミサイルを搭載し、30機のMG29戦闘機の購入することを計画している。(34)

 

このように、中国の高圧的態度はASEAN諸国の間にナショナリズムを再燃させ、それはASEAN内部の係争を引き起こし、したがってASEANの紐帯そのものを損ねる可能性がある。例えば、1988年4月、マレーシアは南沙諸島のマレーシア水域に侵入

 

 

 

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