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にしたかったのである。ベトナムをカンボジアから撤退させることが中国の目標の一つだったのである。(24)

 

中国の南シナ海に対する自己主張の強まりが領有権を主張する他の諸国家からの挑戦に対する対応である、という考え方は、他の一部の西側の理論(例えば脅威理論)よりも説得力がある。これは中国のこのような挑戦に対する柔軟かつ十分に計算された対応ぶりと戦略を見れば分かることである。主権の原則は譲れない、とする中国の基本的立場が変わらないものの、戦略的には、中国の態度と対応は敵国の態度と政策に応じて変化し得る。例えば、ある敵国の強硬な立場を「反中国」と認識すれば、中国は少なくとも同様に強硬な立場をとるのである。実際、これは1977年から1988年まで中国がハノイに対してとった態度である。つまり、Thieu政権下の南ベトナム政府が1973年9月に西沙諸島をPhuog Tuy省に統合する決定を下した際、PLANは4カ月後に派遣され、ベトナムを西沙諸島から撤退させたのである。他方、敵国が友好的な態度を示せば、北京はより好意的な態度を示す。例えば、領有権を主張しているが、ASEAN加盟国であるマレーシアとフィリピンの2カ国に対しては、好意的なアプローチをとっている。中国はマレーシアとフィリピンに対しては決して武力を行使しようとしたことはない。それどころか、これら2カ国に対しては、常に理解を示し、他のASEAN諸国およびASEAN全体に対してさえも、大方理解を示している。それを最もよく示す例は、1989年9月のベトナム軍のカンボジアからの撤退である。この時、中国は即座にこの行動を好意的に受けとめ、ベトナムに対して好意的な態度を示したのである。

 

c)資源

 

中国の自己主張の高まっている理由の一つに、高まる工業化の需要からより多くの資源(石油、ガス、その他の鉱物資源)の獲得の意図が挙げられる。石油アナリストの推定によると、中国の近代化の需要を満たすだけの新たな油田が発見できなければ、中国は1995年までに石油の純輸入国になるであろう。(26)領有権を主張する多くの国による資源の取りあいは、1970年代以降の南シナ海の係争の背後にある重要な理由である。このような係争は、適切に封じ込められなけれない場合、既得権益を損なわれた域外の諸大国の直接的介入を招く結果になり兼ねない。したがって、南シナ海は地域紛争と不安定が潜在する地域になり兼ねないのである。このよ

 

 

 

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