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のである。(20)1991年のソ連崩壊と在フィリピン米軍のプレゼンスの衰退に伴い、中国は南沙諸島に対して自己主張する絶好の機会だと認識したのである。

 

南シナ海を押さえることができれば、中国はこの地域の大国に対してバーゲニングパワーを増大することができる。さらに、自国の全体的な安全保障の必要を強化するのみならず、南シナ海を同地域の他の大国(インドなど)に対する自国の威信や影響力をためのベースにすることができる。さらに、冷戦後のアジア太平洋地域のパワーの配置の不確実性、日本の東南アジアでの政治・経済・外交・安全保障の役割の増大のため、特にポストカンボジア時代の同地域での自国の役割を、中国はより積極的に担うことになろう。地域紛争がインドシナから南沙諸島に移行した感のある現在、南沙諸島は東南アジアの地域紛争の危険地帯として認識されており、紛争当事国のみならず米国のような超大国まで巻きむ可能性がある。

 

ある西側の分析は、中国の南沙諸島に対する最近の自己主張は、単に拡張主義的意図が姿を変えただけではないか、と指摘している。この分析によれば、このことは中国のビルマに対する動きに表れている。すなわち、中国はインド洋への航路を確保するための基地をビルマに建設したと報告されているのである。もしこの報告が正しければ、このビルマの中国海軍基地により、中国海軍は世界で最も重要な2つの海洋のうち1つの海洋で活動したい、(21)という中国の夢が叶うことになる。しかし、北京はこの報告を否定している。

 

ある学派は、PLANの自己主張の高まりは、日本の潜在的な脅威への対応であり、南沙諸島の係争は自国の真の懸念と意図を隠すためのうってつけの「煙幕」を与える、という指摘さえしている。(22)中国の同地域における安全保障上の関心は、南シナ海が海上緩衝地帯ないになり得るということである。例えば、中央から遠方の海上に新たな前線を展開することができれば、中国がわざわざベトナムのような潜在敵国との戦闘を本土で行うであろうか。つまり、、中国は南シナ海の広大な地域を利用して新たな前線を展開し、潜在的敵国を弱体化することができるのである。したがって、1988年3月のジョンソン島をめぐる中越間の海上のこぜりあいは、ベトナム軍を弱体させるためのカンボジアにおける意図的かつ計算された冒険主義だったと解釈するすることもできる。(23)さらに、中国は南沙諸島での武力衝突をベトナムに国交正常化の中国側の条件を強いるための外交交渉のバーゲニングチップ

 

 

 

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