賊には前方に何が待ち受けているか見えないと言う理由から、危険地帯を通過する船舶は、決められた明かり以外は一切点灯せずに真っ暗な状態にすべきであると言う考えの人々がいる。しかし船舶のサイドの海面には明かりが当てられる様にすべきである。これに対して、煌煌と明かりをつけた船に賊が近づく時には、効果的な監視の目があるのか、賊が忍び込むのを防ぐための対策が運用されているのかが見える。
どちらの場合にせよ、賊とめぼしい人間が発見されたら、船上ではいろんな事が起こるはずだ。全ての明かりが点灯され、船に近づく者の目を眩ますためにサーチライトが使われ、サイレンが鳴らされ、人々が走り回るのが見えるなど、賊の襲撃に対して船中の全てに準備が整っている様子を見せるべきである。
この様なテクニックが事前に計画され、実際に使われた多くの場合には、襲撃を狙った賊は引き上げて、もっとやさしい獲物を狙う。
第10章3節
時には賊に消火用ホースを使って撃退させるのも可能である。それには水圧が効果的である事が大切であり、少なくても1インチ四方80ポンドの圧力が望ましい(IMO―MSC出版物623)。この圧力であれば賊を追い払えるであろうし、抑止力にもなる。賊は水に対抗しなければならないだけでなく、その間にも賊の乗っている船は水浸しになり、電気系の装備もだめになるであろう。ホースを扱う人を保護するために、ホース用の特別な備品が考えられるべきだ。
しかし、暴力的手段や効果的な消火用ホースの使用などによって賊が追い払われたどのケースにも、力ずくで賊を阻止しようとして失敗し、その挙げ句に復讐のつもりか、賊が過剰な暴行を加える事はもっとあった。
だからIMOは、もし脅して追い払う普通の段階で失敗したら、船に侵入した賊に抗わない方が良いとしている。これは普通、船員の本能には侮辱とも思えるかもしれないが、まず最初の段階で賊が乗り込もうとする意志をある程度見せたなら、彼らは暴行を加える事に躊躇はしない。又、賊襲撃探知能力が現在のレベルであれば、賊は恐れを抱く理由は何もないのだ。被害者にとって一番大切なのは命を守る事あり、2番目に大切なのは船舶への損害を最小限にくいとどめることなのだ。
第10章4節 襲撃を受けた場合の行動