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げ込んだ。見張りが咄嵯に一番恐れた火事となった。そして見張りがその火を消そうとしている間に賊がタンカーに乗り込んできた。賊は12人であった。彼らは乗組員を集め、それから金庫を開けさせるために船長とその家族を船長室に連れ込んだ。途中で争いになってインディアンの甲板航海士がナイフで重傷を負ったり、船長や電気技師が負傷したり、船長の7ヶ月になる娘が頭部に傷を受けたりした。この間ブリッジは完全に空であった。 乗組員の一人は何とかエンジン室に連絡を取り、その場にいた主任技師は命令を受けたのではなかったが、全てのパワーを切って、船の航行を止め、ただ浮かぶだけの状態にした。 賊は金庫を略奪し個人の持ち物を盗んだ後、船尾から飛び降りて待っていた3隻の船に拾われていった。再びタンカーにパワーが入いり、タンカーはシンガポールへと逆戻りをし、怪我人はそこで病院に収容された。

 

第7章 海賊行為―その可能性

 

様々な理由から、短期拿捕は産業界、新聞、人々の想像力を捕らえた。多くはそのような事実はけしからんと言う気持ちであるが、問題を正しく理解する事が必要である。

 

暴行を伴う盗みには言い訳はきかないが、この様な犯行の頻度は低く、陸上で起こる同じような犯行の頻度と規模を比べる時、海上で起きる犯行の盗品の合計は比較的少ないのだ。 だから法執行機関への圧力にも関わらず、こうした犯罪への取り締まりは必ずしも優先されないのだ。

 

災難が降りかかる可能性は常にあるし、それがわかっていてもほとんど注目される事はなく、人々の関心を集める事もほとんどない。1990年にこの地域で起きたほとんどの事件はシンガポールとインドネシアの海域南半分ほどの所にある長さ20マイル程のフィリップ海峡でのことだ。海路が西東に伸びるこの地域では、従来の貨物船、コンテナ船、あるいはタンカーなど、どんなタイプの船舶でも被害を受けてきた。

 

東に向けて航行するタンカーはたいてい貨物を積んでおり、ペルシャ湾内から出港してくる。この地域を航行する船舶に関する統計によると、どちらの方角に向けて航行するにしても船舶同士がすれ違うまでにかかる最大間隔時間は約20分であり、逆方向へ進む2船舶の間の距離は時として1マイルにも及ばないのだ。この様な危険地帯である事から、この狭くて込み合う海路を通過する間ずっと見張っている事と、航行に関するその他の任務が意味するものは海賊防止のための見張りを置く余裕など持てない事だと、大きなタンカーの船長は言うだろう。ブリッジに人がいず、もし海賊の襲撃を受けてもどうしようもしようもないというこの筋書きは確かに起こり得る事である。賊が去った時、その船舶の乗組員がすぐには自由に動けなかったために、ブリッジには70分もの間誰もいないと言う事態が起こった1件が報告された。もしこの事件がフィリップ海峡で起きたなら、大被害は事実上避けられない事であったろう。

 

 

 

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