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その様な略奪がレベル程度の高い組織によるものとわかるだけでなく、この犯行に咎めがないだろうと安心して行われたと言う事実は、海賊の一人が18ヶ月間でこれが6回めの犯行で、全て成功したと発言していることから判断できる。更にこの主張が間違っていない事を証明するのは、マルタ号事件の後にこの地域でもう3件の似たような事件の報告があるだ。1995年9月キプロスの貨物船アナ シエラ号がタイ湾で乗っ取りを受けた。この事件については詳細を第7章で述べる。

 

第6章3節その3 短期拿捕

 

数字の点から見ると、短期拿補は1992年までにスマトラ島の北西先端からマラッカ海峡、シンガポール海峡、フィリップ海峡にかけてと、インドネシア領海において最も普通であり最も頻繁に見られた。取り上げたい2、3の例外を除いて、その方法は本質的にはとても単純である。

 

賊は目的とする船の脇に、その船に匹敵するスピードが出る小さな船でやってくる。そして18ノットまでのスピードが出ている時に乗り込むのだ。賊は船尾から乗り込んで来るのが普通で、彼らは船首や中央あたりから乗り込むのを避ける。それは船尾のブリッジや乗組員室へ行くために甲板を歩いているうちに見つかって不意打ちの要素をなくしてしまうからだ。目的の場所に着くと、ブリッジにいる乗組員を威嚇して手出しが出来ないようにし、金庫が見つかるはずの船長室へ行くのだ。そこで賊では金庫を開けるか、船長に開けさせる。金庫が開かなければ、金庫ごと持って行ってしまう。

 

賊は個人の現金や個人の所有物も盗んで逃げる。犯行にかかる時間は平均で30分ほどで、平均的収穫高は5千ドル位である。

 

個別の犯行を語ることはそのテクニックの違いを説明することになる。一般に盗みの中心になるのは現金と貴重品であるが、傘1本が盗まれた事件や船の台所から台所用品が盗まれたような事件もあった。

 

ほとんど全部の犯行において威嚇や暴行が加えられるのは可能性として存在する。海賊が誰にも見つかることなく船に忍びこんだ事も1度とならず報告されている。船長室の備品から金庫を盗んで見つからずに逃げおおせた事件もある。他の事件では暴力が暴力のために行使された事もある。その1例がヴァリアント キャリアと言うタンカーの場合である。 1992年、このタンカーは全積み荷が燃料用のオイルであったが、シンガポールから南東に4時間程航行したインドネシア沿岸で賊に襲われた。海賊防止のための見張りがずっと置かれていたが、少なくても15人の賊が3隻の快速ボートで到着し、タンカーの甲板上に火炎びんと思われるものを

 

 

 

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