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安全保障と海洋安全協力の前提

海洋情報とデータ交換

 

サム・ベートマン(豪ウーランゴン大学海洋研究所所長)

 

 

海洋情報・データ(1)の交換の枠組みには以下の2つ側面がある。

 

・対話と協力によって形成されるという性質上、もともと海洋信頼・安全保障醸成措置(MCSBM)としての潜在性を有している。

 

・海洋監視や海面高度/気象監視など、近年提唱されるようになった海洋安全協力の必要条件、すなわち「積み木作り」である。(2)

 

海洋情報データベースの編集および異なるデータ利用者・収集者間の海洋情報の交換は、近年の情報技術の飛躍的な進歩により促進されるようになった。データの保存、交換、操作がはるかに容易になったからである。例えば、デジタル海洋データベースは、水文地理学、海洋地理学、地理学、航行ルート、交通、港湾インフラ、海洋事故(乗り上げ、衝突、海賊の襲撃など)に関するデータを納めることができる。これらの情報から傾向や因果関係を分析することができ、海洋に関連する諸産業の経営コスト削減と効率向上、海洋ガバナンスの向上、海洋安全と海洋環境一般の監視の改善など、多大な利益がある。

 

海洋情報システム・データベース構築の目的は、利用可能な最良の情報を、管理者、政策アドバイザー、意思決定者、戦略立案者などのユーザーに対し、統計、レポート、地図の形で提供することである。通常の軍事安全保障では、防衛立案・作戦用の地理情報システム(GIS)(3)が長い間知られてきた。GIS、あるいは他のデータシステムには、データインプット(地図、表、現地観察、遠隔センサデータなど)、データの保存、統合、操作、分析を行うGISデータベース管理施設、そしてアウトプット(地図、レポート、統計など)(4)などがある。総合的安全保障の一部としての海洋安全保障においては、持続可能な開発や統合的沿岸・海洋水域管理という考え方は、海洋情報の必要と利用法に大きな影響を与える。

 

GISあるいは他のデータシステムの生成する情報の質は、データインプットの質に依存し、明らかに利用される情報源の数が増加するにしたがって向上する。こうした情報源の中には、国内および国外の他の関連するデータベースや収集者が含まれている。したがって、国内および国家間の情報分有を地域ベースで行う用意が整っていなければ、データベース・情報システムの維持から最大の利益を得ることはできないのである。メタデータ(「データに関するデータ」)と言われるデータの利用可能性について知識は、有用なスタート地点である。

 

地域化という考え方は、情報システムを管理可能な規模に維持し、アウトプットに対して何らかの焦点を与える上で特に重要である。情報システムやデータベースが網羅する地域の境界は、情報システムの目的や機能に応じて、特定の環境の戦略的、経済的、物理的、化学的、生物的、あるいは地質学的特性によって定義できるであろう。本稿の注目する特に重要な点は、こうした境界が国境とは無関係であるということであり、国内のインプットに制限された情報システムのアウトプットは質的に劣るということである。

 

主要な鍵概念をいくつか説明した後、本稿はアジア太平洋地域の海洋情報交換・データベースを重要たらしめる要因について検討する。そこではこうしたプロセスを構成する要素

 

 

 

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