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アジア各国は独立後30年から50年を迎えるが、「いつかは立派な軍隊を持ちたい」というナショナリストの長年の夢がいよいよ叶う経済力がついたのである。この時期が冷戦終結の80年代後半と重なった。米ソの軍事的プレゼンスが弱まり、隣国同士の紛争がクローズアップされてきたのもこの時期である。隣国同士の紛争は、冷戦中は米ソ対立という沢庵石で押さえつけられてきた。重石がはずれれば紛争に火がつくのは当然である。

 

このような背景のもとで、アジア諸国は隣国の海軍同士がいったい何を計画し、何を実行しようとしているのかわからないで困っているのである。実際に、海軍同士が衝突したらどうするのであろうか?残念なことに、この地域では、そのときにどうするかの取り決めが何もないのである。当然ながら、いざというときのことはあらかじめ取り決めておくことが極めて重要である。

 

そこで冒頭に述べた「2国間の海上の事故防止に関する協定(INCSEA)」が注目される。これがウィークス論文の主題である。もちろん、この協定には欠陥も多い。しかも「協定」だけでは全く不十分なのであるが、われわれが物事を考える上では格好のスタートラインを与えてくれるに違いないと筆者は主張している。

ウィークス氏は多数の論文を生産する米国の論客であり、しばしば来日する人物であるが、この論文は「事故防止に関する協定」に関する一般的、紹介的な論文であり、決して読んで愉快な論文ではないが、よく整理されており読みやすいので好論文と言える。これが、ここに訳出した理由である。

この論文は、太平洋において、議論の場を提供し指導力を発揮すべきはCSCAP海洋協力作業グループであると断定しているが、部外者から見るとウィークス氏自身が力瘤をいれているグループの自己宣伝のように聞こえるかも知れない。しかしながら、客観的に言ってこの点については異論はなかろうと思う。

 

論文の要約

 

海上の信頼醸成措置における「協定」の役割

海上における信頼醸成措置が、今後の地域安定に果たす役割は増大するが、そのなかで「事故防止に関する協定」は冷戦後の世界でも依然として有効な道具である。われわれは、この「協定」から出発し、将来、公開性や透明性を高めながら、各国の海上の協力を進めて行くべきである。

冷戦後の世界には、新しい海上の安全保障上の懸念が浮上してきたと筆者は言う。それは、各国の海軍近代化によるものである。中国、日本、インドは強大な潜在力を有し、その他の国々も力をつけている。94年に国運海洋法条約が発効した結果、沿岸200マイルの排他的経済水域が拡大されたために、海上の治安維持や資源管理の要求が増大した。さらに世界貿易が驚異的に成長したこともあり、これらが各国の海軍近代化の原因となり、近代化を支える原資を供給している。

 

地域ごとの考察

筆者は、世界を一律に論ずることはできないとして、第1に「アメリカ/欧州」について論じている。それによると、この地域では西欧同盟国とロシアとのあいだで個別に2国

 

 

 

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