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当該論文の位置付けと要旨を下記に掲載します。論文の全訳はこのあとの頁にございます。

 

海上における事故防止協定と信頼醸成措置

公海上の事故防止協定(INCSEA)を超えて

Incidents at Sea Agreements and

Maritime Confidence‐Building Measures

 

スタンレー・B・ウィークス(米国SAIC)

Stanley B.Weeks

Senior Scientist in the Programs and Policy Division of

Science Applications International Corporation(SAIC)

 

論文の位置づけ

 

この論文は1996年4月のクアラルンプールにおけるCSCAP海洋協力作業グループ会議に提出された。

 

冷戦中、海上におけるに最も恐れられた事態は米ソ両国海軍の衝突であった。当時、米ソ間にはお互いに約束された交信手段もなく、両国は海上で「つっぱった」状態にあった。従って、船同士がぶつかることがわかっていても回避することができず、たとえ相手の船が動けなくてもそこに突っこんでしまうという状態であった。このような恐ろしい事態が初めて改善されたのは、1972年に米ソによって設けられた、米ソ2国間の海上の事故防止に関する協定(INCSEA)であった。これは初期のデタントの産物である。89年には、これは、米ソ海軍間の「危険な軍事行動に関する協定」に進化した。今日世界に多数(1ダースほど)存在する「協定」はすべて1972年の「協定」に起源を有する。

 

さて、冷戦が終結し米ソ海軍衝突という恐るべき事態が日常の心配事ではなくなくなると、新しい問題が出現した。それは、世界各国の軍拡であり、とりわけ経済の高度成長下にあるアジア各国の軍拡である。共産ゲリラなどの国内反乱分子に悩まされることがなくなった各国政府がこぞって海洋に進出を始めたのである。小さい国は小さい海軍を、大きな国は大きな海軍を各国がそれなりに建造し始めた。「隣が潜水艦を買うなら、うちは駆逐艦」という、相互不信から来る無秩序な海軍拡張競争が始まったのである。現時点では、インドネシアやタイが中古潜水艦や空母を輸入する程度の話だが、軍拡の序曲はアジアにおいては確実に鳴り響いているのである。

新興国家の海軍建設競争の背景には、各国政権の安定基盤が軍にあり、軍の支持なしに政権が維持できないという事情がある。国家経済が9%成長すれば、その年の軍事予算を8%に抑制することは政治的に不可能なのである。軍事費の突出した成長(たとえば12%)は阻止できても、9%以下に抑制することはできない。したがって、高度経済成長を続けるアジアでは、好むと好まざるとにかかわらず軍事費拡大ペースは急ピッチである。

国内反乱分子の問題が解決の方向に向かっていることから軍内で肥大化した陸軍が縮小されると、節約分はこれまで粗末なもので我慢していた海軍、空軍の建設にることになる。

 

 

 

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