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ケベック州のQSTは導入当初は複数税率であったが現在はGST込みの価格の6.5%(合計税率は約14%)という単一税率になっており、税率構造は近似化しつつある。導入当初、両者の課税ベースは、仕入税額控除について違いがあり、ケベックのQSTでは一部の財貨(燃料、電化製品、自動車)について前段階税額控除がなかったが、1996年にはGSTと同様に控除されることになった。しかし最終消費の段階ではケベック州のQSTは払い戻し(rebate)によって本などの購入を非課税扱いにしている。したがってケベック州では連邦と州とで付加価値税の課税ベースの統一性を保ちつつ、かつ最終消費レベルに関するかぎり、州が事実上課税ベースを決定しているといえる。

多段階の付加価値税であるにもかかわらず、ケベック州が連邦政府から独立してQSTの税率を決定できるのは、この税が仕向地原則にもとづいて賦課されているからである。州を超えておこなわれる事業者間の経済取引は、現在、EUで暫定措置として適用されている「繰延支払い」システムにもとづいて課税される。他州であれ他国であれ、ケベックからの輸出はゼロ税率によって免税される一方、輸入は登録輸入業者が消費者に販売した時点で事実上、賦課される。このシステムは本質的には現在のEUの制度と同じであるが、カナダでは上位政府の付加価値税、すなわちGSTが繰延支払の正しい執行をモニタリングする役割をになっている点が違う注26。そもそもQSTはGST込の価格に課税されるので、ケベック州が連邦のGSTをモニターする動機は十分にある。しかし、それ以上に重要なことは、たとえばケベック州自身はオンタリオ州の事業者への輸出を免税するとき、その業者が本当に存在するか否かをたしかめることはできないわけだが、連邦GSTのモニタリングが、事実上、ケベック州にかわってQSTに税回避がないかどうかをクロス・チェックするのである。

 

7. 結びにかえて

 

レベニュー・マシーンと称される付加価値税の果実を中央政府が独占し、もしくはその一部を分与税形態で地方に配分すべしというこれまでの考え方は、根本的な挑戦に直面している。すなわち、いずれか一方のレベルに専管的に配分するのではなく、複数段階の政府が各々付加価値税を独立に課税する併存型の付加価値税ともいうべき新しい選択肢の可能性が広がっている。

 

この新しい潮流の核心となっているものは、租税境界(税関など)を廃止しても、仕向地原則の適用は可能であるという哲学である。たしかに、租税境界が設定できなければ地方政府が付加価値税を課税するには原産地原則以外にありえないというノイマルク委員会的な考え方は根強い。われわれはその影響力をブラジルのICMSに垣間見てきた。

しかし、シャウプ及びクノッセン等が重い扉をこじあけたように、そしてポダーがそれを地方自治体レベルに適用したように、仕向地原則の優位を前提にしたうえで、いかに租税境界廃止後に仕向地原則を実施するかという実務的な問題に焦点はうつりつつある。

 

新しい哲学のアイデアは境界調整の役割を税関から政府・民間部門の会計勘定にシフトすることにある。すなわち(1)輸出地に帰属した税収を中立的機関を通じて精算し、消費地となる輸入国に取り戻す精算システム、(2)輸入時課税を税関通過時点ではなく、国内での最初の販売時点におこなう繰延支払方式のふたつのアプローチがこれである。このふたつのアプローチの登場によって州・地方政府が付加価値税の果実に参加する方式は飛躍的に拡大する。バード及びジャンドロンは、第二のアプローチの実例としてカナダのケベック売上税をあげ、"dual VAT"と呼んだ。日本の地方消費税は基本的に第一のアプローチに沿ったものといえる。しかし、わが国では耳慣れない第二のアプローチについても関係者は関心をもつべきである。解決されねばならない問題は山積している。しかし、分権時代の地方税財源の拡充には付加価値税への地方政府の参与を欠かすことはできない。

 

注26ibid.

 

 

 

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