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6. 繰延支払による仕向地原則

 

輸入時課税を税関通過時点ではなく、国内での最初の販売時点におこなう繰延支払というシャウプ=クノッセンのアイデアは、わが国においては精算システムに関する活発な議論の影にかくれて、耳慣れない響きをもつ。しかし、繰延支払では、地方政府が租税境界を物理的に設定できなくても、地域間の財貨・サービス取引を仕向地原則にもとづいて課税できる。

 

現在、EUでは暫定措置として「繰延支払い」方式(defferedpayment method)によって仕向地原則を適用している注24。Aという加盟国の企業が行なう他の加盟国の登録業者への輸出はA国内でゼロ税率がかけられている。すなわち、EU加盟国への輸出は租税国境がないにもかかわらずEV外への輸出と同様に免税・還付されている。そのようなことがなぜ可能であるかといえば、輸出業者にあたえられるゼロ税率・税還付の資格が租税国境(税関、輸出証明書)によってではなく、証拠書類(輸出先の登録業者の支払証明、船積証明など)で確認されているからである。

一方、非EU加盟国からの輸入とは違い、A国の登録業者がEU加盟国から輸入する場合、国境では課税されない。そのかわり、A国の輸入業者は事実上、輸入に対する付加価値税をA国の税率で支払うことになる。なぜならば、輸入業者が国内で商品を再販売するとき、売上にかかる税額から控除される仕入税額がゼロだからである。このシステムは自己申告にもとづいて機能する。すなわち登録輸入業者は輸入を申告し、付加価値税を計算し、それにかかわる税額控除を取り除く手続を同一の申告書の中で行なうことが仮定されている。要するに、「繰延支払い」方式は仕向地原則における輸入時課税のポイントを、租税国境通過時点ではなくて登録輸入業者の最初の販売時に繰り延べるものであるといえる。

 

繰延支払方式はEUのケースのような国家間の経済取引だけではなく、地方政府間レベルにおいても実施されている。この点で特筆すべきはカナダの経験である。カナダのケベック州は1991年からケベック売上税(Quebec Sales Tax, QST)という名称の付加価値税を連邦政府の財・サービス税(Good and Service Tax,GST)と並行して徴収している。トロント大学のバード=ジャンドロンはQSTは「併存型付加価値税」(dual VAT)であると指摘し注25、その特徴を(1)複数レベルの政府が税率を全く独立に設定している、(2)課税標準は本質的に同一であるが、独立に決定する余地を残している、(3)徴収が州に一元化されていて連邦の取り分が分賦税形式をとる、と定義している。連邦政府のGSTの税率は7%、

 

注24Cnossen,S,.op.cit

注25Bird,R.M.and Gendron,op.cit,

 

 

 

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