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と釣り合っている。しかし逆にいうと、豊かな地方から貧しい地方への財源移転なしには統合売上税が成立しえなかったこと自体にこの税のせまい限界があるといわねばなるまい。財政的に補償されない「持てる州」(ケベック、オンタリオ、アルバータ、ブリティッシュ・コロンビア)は、連邦政府との取引きによって失うものはあっても、それに見合うものがない。

 

単一制国家で精算システムを取り入れたケースとしては日本の地方消費税をあげることができる。しかし、日本では既存の分与税にかえて、精算システムによる地方付加価値税を導入したという点がカナダのHST導入の経験と異なる。すなわち、1989年の抜本的税制改革において「消費税」が導入された際の地方税制改革では、地方の個別間接税を廃止・縮小する一方、地方への「消費税」の配分は消費譲与税と地方交付税によって行われることになった。このとき創設された消費譲与税は、本質的には分与税形態の付加価値税であった注22。その後、1997年4月に消費譲与税が廃止されて、地方消費税が導入された。したがってカナダのHSTが州の課税自主権の後退として写ったのに対して、日本の地方消費税ではすくなくとも消費税の課税権を地方政府が中央政府と新たに共有することが強調されたといえる。

 

しかし、当初提案された地方消費税は、原産地原則すなわち取引段階ごとに課税され、課税した地方団体の歳入となることとされていた。だが、その場合に「税収の帰属地と最終消費地との不一致」が起きるという議論がなされた。そこで妥協案として都道府県全体が地方消費税を地方全体のために徴収し、清算システムを通じて、最終消費を基準にして都道府県に税収を帰属させ、「税収の帰属地と最終消費の不一致」を解消しようとする考え方がだされた。新しい地方消費税では国税の消費税額の25%を、「当分の間」、国(税務署)が賦課・徴収したのち、「消費に相当する額」(地方税法第72条の114)を按分基準として都道府県間で精算し、都道府県は精算後税収の2分の1を人口と従業員数で按分して、当該都道府県内の市町村に交付することになった。この地方消費税は地方団体に徴税権がなく、課税権だけがあるという税であるが、中央政府と地方政府が共同してもつ地方税であると評価されている注23

 

注22消費税収入の20パーセントを消費譲与税の総額として、その11分の6を都道府県に、11分の5を市町村に譲与する。各地方団体ごとの譲与については、都道府県の場合にはその総額の4分の1を都道府県の人口に、4分の3を各都道府県の従業員数に按分して譲与し、市町村の場合にはその総額の2分の1を各市町村の人口に、2分の1を各市町村の従業員数にあん分して譲与する。消費行為を消費者の住所地と消費サービスの発生地の双方でとられるためにこの二つの指標が用いられた。

注23日本の地方消費税の性格について、神野直彦「歳入自治回復の第一歩-地方消費税と地方財政-」『税務経理』平成7年5月を参照。

 

 

 

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