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どうかは依然として不透明であるといわざるをえない注17。

 

連邦制国家で精算システムをとりいれたケースとして、カナダの大西洋沿岸3州が合意した統合売上税(Hamonized Sales Tax)注18が注目に値する。1997年4月、カナダ連邦政府と小規模で財政的に依存している大西洋沿岸3州(ニューファンドランド、ノバ・スコシア、ニュー・ブルンスウィック)は連邦政府の附加価値税である財貨・サービス税(GST)とこれら3州の小売売上税とを、新しくできる統合売上税(Hamonized Sales Tax,HST)に統合した。

 

新しい統合売上税の骨格となる内容は、(1)連邦と州の別個の売上税を単一の統合売上税によって代替し、課税ベースも統一、(2)参加3州における州・連邦の合計税率を15パーセントに統一、(3)連邦および州の売上税の徴収は、連邦政府と州の共同機関としてのカナダ歳入委員会(Revenue Canada Commission)に一元化、(4)EUの最新提案や日本の地方消費税と同様に、連邦政府と3州は総税収入を各州の消費高を基準にして配分、(5)州をまたがる財貨・サービスの経済取引はケベック売上税と同様に繰延支払い方式で課税、というものである注19。

 

EUでは長い時間をかけても実現していないことが何故、カナダの一部で急速に可能になったのであろうか。カナダでは「上位政府」としての連邦政府が存在し、かつ参加3州が小規模で財政的にも連邦政府に依存する「持たざる州」であったことが重要であろう。統合売上税に参加することによって、州の課税自主権は大幅に後退するが、他方、改革による歳入の減少は連邦政府から交付される「調整援助金」によって償われる。すなわち小売り売上税から統合売上税へのシフトによって5パーセント以上歳入の減少した州は注20、4年間にかぎり、「調整援助金」の受領資格があたえられ、その総額は約10億ドルと推計されている注21。大西洋沿岸諸州から見ると課税自主権の喪失は財政的補償

 

注171996年の自治EVの最新提案「共通付加価値税」の骨子は、(1)課税ベースと税率の統一、(2)付加価値税の連鎖のボーダー取引への拡大、(3)EU内における単一地域での企業の課税、(4)加盟国間での税務行政の密接な協力、(5)マクロ的消費統計を基準とした加盟国間への税収配分である。

注18大西洋沿岸三州の統合売上税(HST)についてはBird,R.M.andGendron,PP[1997]およびGendron,P.Mintz,J.M.and Wilson,T.A.[1996]を参照。

注19Gendron,P.Mintz,J.M.and Wilson,T.A.,op.cit.バード及びジャンドロンは、この統合売上税を、納税協力費用を削減し、単一の機関が徴収する点で肯定的に評価しつつも、州の課税自主権とりわけ税率決定権を制約していると述べている。彼らによれば、繰延支払い方式を採用しているのでHSTの税率の差異は経済活動に中立的である。そればかりか、連邦政府の税率決定権も事実上、州の全員一致ルールによって縛られているという。

注20統合売上税にはサービスが課税ベースに含まれる。他方、従来の小売り売上税で事実上課税されていた事業用財貸は税が控除される。この両者の大小関係によって、参加各州の歳入に増減が生じる。

注21上記3州以外では、プリンス・エドワードアイランド、マニトバ、サスカチュワンも、統合売上税の協定に署名すれば「調整援助金」の受領資格があたえられる。

 

 

 

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