日本財団 図書館


消費地に不利であるということはできない。しかし原産地原則の母国であるブラジルの場合には、移出の多い工業地域は概して輸入地でもあり、逆に移入の多い後進地域は一次産品の輸出地でもあるため、二重の意味で地方付加価値税の収入が南部の発展した地域に偏在しやすい構造となっている。このためブラジルの付加価値税では極めて複雑な調整が不可避になっている。

 

ブラジルの付加価値税は原産地原則にもとづいているので、税収入の配分が純移出地である製造段階の活発な州に有利となっている。よく知られているようにリオ・デ・ジャネイロやサン・パウロといった南部の工業化のすすんだ諸州は国内の他州との交易は出超であるが、対外貿易は入超になっている。一方、アマゾン等の北部の貧困州では南部諸州との取引は移入超過であるが、対外貿易は一次産品輸出にささえられて輸出超過となっている。したがって州間取引を原産地原則(移出課税、移入非課税)、国際取引を仕向地原則(輸出ゼロ税率、輸入課税)で課税するICMSの税収入は、南部の工業諸州へ有利に帰属することになる。こうした不公平を緩和するために極めて複雑な調整措置が必要となる。すなわちブラジルでは法律によって原産地州から移出される財貨・サービスの税率は、州内で完結して取引される財貨・サービスの税率よりも低く設定されている注13。

 

要するに、原産地原則に資源配分の中立性を求めるのであれは、地方政府の税率決定権を制約しなければならないが、それはゴールではなく税収配分の地域間公平性如何という別の問題のスタート地点に立つことを意味している。ブラジルの差別税率の開きは、徐々に拡大する傾向にあり、1997年現在では州内の経済取引の税率は17%、州間のそれは12%であり、その差は5%に達する(南部・南東諸州から北部・北東部・中西部諸州への移出には7%の税率が適用される)。ただし課税ベースに税額が含まれるので、実行税率はより高くなる。原産地州に支払われた税額は仕向地州の納税額から控除されるため、財貨・サービスを移入した州にも州間税率と州内税率の差に相当する税収機会が生じる仕組みになっている。また北部の輸出州が不利になるのを避けるために、ごく最近まで仕向地原則であるにもかかわらず一次産品の輸出にはゼロ税率が適用されず(払い戻しがない)、13%の付加価値税がかけられていた。

 

ブラジルの経験が物語っていることは、原産地原則の地方付加価値税は財貨・サービスが活発に交易され、複数の地域をまたがる関連企業が多い国では、あまり魅力的な選択肢ではないということである。それは「世界中で最も複雑な付加価値税システムであり、その複雑さは原産地原則に関係している」(Satya N.Poddar)「ブラジルの(ICMSの)ケースは、地域間の経済取引の課税と納税協力費用・税務行政コストのふたつの分野に

注13Longo,C.,op.cit.

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION