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しかし、原産地原則にはつぎに述べるような問題点があることもまた事実である注12。第一に地方付加価値税の税率が地域間で異なると、企業活動や消費行動に様々な歪みが生じる。まず企業活動についていうと、関連企業内での経済取引を操作して(移転価格)より低い税率の地域に可能な限り付加価値を配分しようとするインセンティブが生じる。その場合、いわゆる「独立企業間価格」を尺度にして租税負担の回避を防ぐことは理論的にありえても実務的には不可能に近いといってよい。仕向地原則の場合には地域間で税率が異なっても、生産者、卸売業者の立地とは一切無関係に、税収は最終消費地だけに帰属するため、そのようなインセンティブは生じない。一方、原産地原則では最終的な税負担は付加価値の地域間配分と流通経路となる地域毎の税率とによって決定されるので、同一の商品にもかかわらず最終消費レベルでは価格が一致せず、消費行動に歪みが生じる可能性がある。つまり極端ないいかたをすると原産地原則のもとで資源配分への中立性をもとめるとするならば、地方政府から税率決定権を奪いとって、全国一律の共通税率を強制する以外に選択肢がない。

 

ブラジルでは州間での税率の差異が生産や交易におよぼす歪みを最小限にするために、州政府の課税自主権が法律によって厳しく抑えられている。とくに州間の経済取引に適用される税率には連邦政府による「上限」が設定されている。仕向地州では既に原産地州で支払われた前段階の税額の払い戻しを請求される(事業用財貨)ので、「上限」を連邦政府が設定しておかないと、原産地州が税率を引き上げるたびに、仕向地州は収入機会を失うからである。

 

第二に国際的取引を仕向地原則で課税する場合、どの地域が輸入時課税の恩恵にあずかり、またどの地域が輸出払い戻しを負担するかという分担問題が生じる。最初の輸入地域が輸入時課税を行うことについて、国際的空港や道路、港湾の整っていない地域が同意するかどうかは自明とはいえない。それと同じことが最終的な輸出地域が輸出払戻しを負担することについても原理的に起こりうる。輸出される財貨の付加価値には船積み以前の段階で経由した各地域の付加価値税がかかっている。したがって輸出払戻しは、輸出地だけが負担するのではなく、流通経路にあった各地方政府に税額に比例して負担させる方がより論理的だという議論も可能性としてありうる。この問題も現実的には地域間の精算機構をつくるとか、あるいは中央政府が一括して取り扱うといったより集権的なやり方で解決するほかない。

 

第三に全国一律の税率、国際取引にかかわる精算機構を取り入れた場合でも、原産地原則では税収が移出の多い地域に偏在し、最終消費が多い地域には不利になる。むろん税収が各地域にいかに帰属するかという問題は国際取引とも密接な関連があり、一概に

 

注12Poddar S.N.,op.cit.

 

 

 

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