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4. 租税境界の廃止と原産地原則

 

一般消費税(取引高税、小売り売上税、付加価値税など)を中央・地方のどちらか一方の政府レベルが掌握するのではなくて、双方が並行して賦課・徴収する国々がある。その場合に地方レベルで課税される一般消費税がいかなる方法で、地域間の経済取引を課税しているかが検討されなくてはならない。この節では原産地原則について検討しよう。原産地原則にもとづく場合には地方政府は最終消費が当該行政区域で発生するか否かにかかわりなく、行政区域内の事業者の売上に付加価値税を賦課することになる。国内取引の課税ベースは「自己区域内消費プラス移出」となる。そして事業者には、他地域の移出課税分を含めて、前段階仕入税額控除が認められる。これに対して、国際貿易は仕向地原則にもとづき課税されるので、最終的な輸出地域が輸出払戻しを負担し、最初の輸入地域が輸入時課税を行う。したがって原産地原則の地方付加価値税の課税ベースは、最終的には「自己区域内消費プラス移出プラス輸入」となる注9

 

―般的にいうならば、租税境界なしに付加価値税を課税するには原産地原則以外ない。税関や輸出証明書等でチェックできなければ、輸出業者への払戻しの真偽をたしかめたり、輸入時課税を例外なく行うことはむずかしいからである。事実、この考え方はEC加盟国の租税境界を取り除くにあたり原産地原則による付加価値税の採用(ただし共通税率)を勧告したノイマルク委員会(1963年)の結論でもあった注10

 

ノイマルク委員会の哲学を地方レベルに適用したのが、ブラジルの州レベルで賦課されているICMSと呼ばれる付加価値税である。ブラジルでは、1965年税制改革で、州政府が課税していた累積売上税(tumovertax)が廃止されて、州税としての付加価値税(Imposto sobre operacoes relativas a Circulacao de Mercadoriase Servicio、ICMS)が導入された。その際、もともと付加価値税が新税の創設というより累積売上税の改善という面をもっていたこと、それにくわえてカール・シャウプ(c,Shoup)博士がノイマルク委員会のメンバーとして65年の改革に短期間であれ関与したこと等の理由でICMSでは国家間の国際取引は仕向地原則で課税するものの、州間での財貨・サービスの経済取引を原産地原則で課税されることになった注11

 

注9伊東弘文[1995]「仕向地原則と原産地原則-地方消費税との関わりで」『地方税』平成6年3月は、原産地原則と仕向地原則との課税ベースの相違をわかりやすく説明している。小論での説明もこれに依る。

注10ECにおける議論についてはCnossen,S[1990]"Interjurisdictional Coordination of State Taxes,"in M.Gills,C.S.Shoup,and G.Sicat,eds., Value AddedTaxation in Developing Countries Washingtan:World Bank)を参照。

注11ブラジルの州付加価値税(ICMS)の内容と問題点については、Longo,C.[1990]"The VAT in Brazil,"in M.Gills,C.S.shoup,and G.Sicat,eds.,Value Added Taxation in Developing Countries

(Washington:World Bank)を参照。

 

 

 

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