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GSTを除いた価格に小売売上税を賦課し、プリンス・エドワード州ではGST込の価格に賦課されている。大西洋沿岸の3州(ニュー・ファンドランド、ノバ・スコシア、ニュー・ブルンスウィック)では統合売上税(Harmonized SalesTax)と呼ばれる、連邦と州が共同で徴収する付加価値税があり、15パーセントの税率で徴収されている。最後に独立・分権化の起動力となっているケベック州にはケベック売上税(Quebec Sales Tax)と呼ばれる州付加価値税があり、連邦GST込みの価格に課税されている。ケベック売上税は、連邦GSTともども、州が連邦政府にかわって賦課・徴収事務をおこなっている注5。

 

3. 分与税方式の長短注6

 

税務行政上の観点からいうと、いったん付加価値税を国税・共同税として徴収して、税収分与の形で地方政府に交付するのが、地方政府がこの税に参与する最も簡素な方法だといえる。分与税方式では付加価値税を全国一律の税率で賦課し、地域間の財・サービス取引については境界調整を行わない。そして中央政府が一括して徴収された税収の一部は全体としての地方政府に分かち与えられ、一定の算定式(還付税、交付税、譲与税方式など)にしたがって各地域に交付される。

よく知られているように、この方式はオーストリアやドイツにおいて実施されている。じつは分与税方式は、資源配分にたいする中立性という観点からいうと、全国共通の一定税率で賦課された地方付加価値税(原産地原則であるか仕向地原則であるかに無関係に)と同じになる。というのは消費者の支払う小売価格はいずれも同一となり、地域間の財・サービス取引に対して歪みを与えないからである。分与税と地方税との相違は、むしろ各地域に税収を配分する方法にあるというべきである。分与税方式の場合には配分方法は還付税であれ交付税であれ譲与税であれ、事柄の性質上、中央政府と地方政府との交渉によって決まり、したがって各地域毎の財政需要なり税収調達能力の懸隔がさまざまなかたちで配慮されることになる注7。ところが、地方付加価値税の場合にはそのような交渉や財政的な配慮はなく、むしろ財・サービスの生産高(原産地原則の場合)もしくは消費高(仕向地原則の場合)に応じて一義的に各地域に交付される。

分与税方式の長所はやはり税務行政の簡素さにあるといってよい。ここでいう簡素さというのは、たんに記帳義務や申告の条件・手続が全国共通であるということだけを指しているのではない。というのも国税の場合と違って、輸入地と輸出地が異なることが地方付加価値税の場合に問題となるからである。個々の地方政府が独立に付加価値税を賦課する場合には、後にブラジルのICMのケース・スタディで触れるように、どの地域が輸入時課税の恩恵にあずかり、またどの地域が輸出払い戻しを負担するかという、不可能ではないがやっかいな問題を処理しなくてはならない。ところが分与税方式であれば、国税として一括徴収されるので、輸入時課税であれ輸出払い戻しであれ、特定の地域ではなく国庫勘定が一元的に行なえばよい。このように分与税方式には国境調整のための追加的な税務行政費用がかからないという長所がみとめられる。

だが他方において分与税方式には地方政府の財政的自律性(課税標準、税率の決定権)を欠くという問題点がある。したがって、すでに州政府が自律的に小売売上税というかたちで一般売上税を賦課している連邦制国家(例えばアメリカ合衆国やカナダ)では、この方式を新たに選択することは政治的にむずかしい。カナダでは1991年に問題の多い製造者売上税(MST)を廃止して、多段階の付加価値税である財貨・サービス税(GST)を導入した。しかし、当初連邦政府が提案したのは小売売上税を税収分与方式の全国的付加価値税(National VAT)に統合する構想であった。この提案に課税権の後退を懸念する州政府の同意が得られなかったために、連邦は小売売上税とは別に財貨・サービス税を導入したという経緯がある注6。EUでも加盟国の課税自主権を失うことへの懸念が付加価値税の統合の主たる障害物となってきたことはよく知られている。また単一国家である日本では1988年の税制改革において消費税の20%を入口や従業員数を基準にして都道府県・市町村に交付する消費譲与税が創設された。しかし、地域住民の負担と行政サービスの受益のつながりがまったくなく、1997年4月に廃止され、地方消費税にとってかわられた。

 

注5カナダにおけるGSTとRSTの統合問題についての最新の情報は、Gendron,P.Mintz,J.M.and Wilson,T.A.[1996]“VAT Harmonization in Canada:Recent Developments and The Need for Flexibility” lnternational VAT Monitor,Vol7,No.6.Amsterdam.が詳しい。やや古くなるが、税源配分論争については池上岳彦[1995]カナダにおける連邦・州間税源配分論争」『経済学論纂(中央大学)』第36巻4号が参考になる。政府間財政関係の一般的な概観については、Krelove,R.,Stotsky J.G.and Vehorn,C.[1997] "Canada,"in Ter-Minassian,T.ed,.Fiscal Fediralism in Theory and Practice,International Monetary Fund.を参照。

注6この節の議論は、基本的にPoddar S.N.[1990]の説明に依拠している。

注7ドイツの共同税では所得税・法人税の州取り分は徴税地主義で配分されるので税源配分であるが、売上税の大部分は人口比例で配分される。人口比例を税源配分とみるのか、財政調整の一形式とみるのかという論点については、伊東弘文[1995]『現代ドイツ地方財政論』文真堂、第6章を参照せよ。なお、後者の側面が東西ドイツ統合によって強められたことを述べているものとして、 Paul Bernd Spahn and Wolfgang Fottinger[1997],“Germany” in Minassion,T.ed,.Fiscal Fediralism in Theory and Practice,Internationa Monetary Fund.を参照せよ。

注8Bird,R.M.and Gendron,PP[1997]を参照。

 

 

 

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