日本財団 図書館


そこで、中央政府が担ってきた所得再分配機能を、地方政府が代替せざるをえなくなる。とはいえ、生まれながらにしてボーダを管理しない地方政府には、法人税や累進的所得税と現金給付との組み合わせによって、所得再分配機能を果たせるわけではない。ところが、地方政府は現物給付によって所得再分配機能を果たすことができる。

そこでこれまでは単に地方公共財を供給することに限定されると考えられていた地方政府の機能が、第2図に示したように準私的財の供給や所得再分配機能への部分的責任分担へと拡大していく。つまり、地方政府は準私的財といわれる個人に割り当てることが可能な社会福祉、医療、教育などという現物給付を供給することによって所得再分配機能を果たす能力があると理解されるようになってくる。

というよりも、こうした準私的財は家族や地域共同体の共同作業や相互扶助によって供給されてきたため、人々の生活に密着した地方政府でなければ供給できない。このような準私的財供給による所得再分配機能こそ、この世紀末に要請されている地方政府機能の拡大なのである。

 

2 問い直される税源配分論

こうして新たな政府機能の展開に対応した税源配分論が要請されることになる。その基本的イシューは、地方政府の政府機能拡大に対する税収確保にある。つまり、準私的財と呼ばれる現物給付を供給することによる所得再分配機能を中心として、地方政府の政府機能が拡大したことに、税源配分論が如何に対応するかが問い直されている。

税源移動性基準に立っても、政府機能基準に立っても、これまでの税源配分論では、不動産税が地方税にふさわしい租税と想定されてきた。その背景には地方政府の供給する公共サービスが、警察・消防・公共事業などの資産保護や資産価値を高める地方公共財に中心がおかれていたことがある。ところが、前述のように地方政府の公共サービスは、地方公共財から準私的財という対人社会サービスに重点をシフトしようとしている。そのため不動産税では税収確保もおぼつかないばかりか、課税の根拠も失ってしまう。

こうした準私的財と呼ばれる対人社会サービスは、家族内部や地域社会内部の共同作業や相互扶助によって供給され、人々の生活を保障してきた。ところが、老人の養老にしろ、幼児の育児にしろ、家族機能や地域共同体機能が縮小してきているために、地方政府が代替的に引き受けざるをえなくなっている。

準私的財という対人社会サービスが、家族や地域社会の共同作業や相互扶助で実行されていたとすれば、労務提供という意味でのワークフェアで地域社会が供給すればよい。つまり、地域社会の構成員が一定期間、地域社会のために養老や育児などの

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION