日本財団 図書館


本ビジョンは、都市活動とエネルギー消費の集中した都市として、地域におけるエネルギーの利用に関する指針を示すものである。本ビジョンで掲げている2010年までの新エネルギー等の導入目標は、経済的制約や制度的課題などの解決を前提としており、最大限実現可能な努力目標である。この実現は、地球環境保全を視野に入れて市民・事業者・行政が一体となって努力し、それぞれに必要な役割を果たすことではじめて可能となるものである。なお、この導入目標は、量的に表すことが可能な新エネルギー等についての目標値となる。

? 主体別の役割

エネルギーは、利用に際してその存在を実感することが少ないものである。また、新エネルギーは経済的に不利な条件にあることから、技術開発の進展と利用者の理解はその導入推進に不可欠な要素である。実際の導入にあたっては、技術的な専門知識を必要とすることが少なくない。したがって、本ビジョンにおける目標実現のためには、市民・事業者・行政がエネルギー問題やその背景となる地球環境問題に対する認識を深めるとともに、適切なエネルギー利用シスデムに関する情報を共有化し、それぞれの立場で実現可能な対策から着実に実行に移し、相互に連携・協力することが不可欠となる。

・ 市民はエネルギー需要の伸びが顕著な民生部門の中心的主体であり、エネルギーの最終消費者という立場からの取組みが必要である。とりわけ、太陽エネルギーの活用を進めること、日常生活等におけるエネルギーの効率的利用を進めることが重要となる。

・ 事業者は、大規模なエネルギー消費者であると同時に、エネルギー消費機器の提供を行う立場でもある。したがって、事業活動に伴うエネルギーの有効活用を図るともに、ライフサイクル的な製品評価を視野に入れた省エネルギー型の商品提供を進める必要がある。

・ 行政は市内最大の事業体の一つであると同時に、市民や事業者に対する情報発信基地としても機能している。したがって、新エネルギー導入等において率先的な取組みを実施するともに、エネルギー関連情報の共有化に向けた試みが求められる。

(3)今後の展開のために(私案)

「新エネルギービジョン」の推進のためには、「かわさき21産業戦略」や、「環境基本計画」などとの計画上での連携が必要だと思う。リサイクルに向けた市民との協働作業については、既にいくつかの提案が行われているので、ここでは、産業との関係から新たな展開を考えていくこととする。

? モノづくり都市の再生に向けて

「地球温暖化問題は知識集約型企業にとって大きなビジネスチャンスである。温暖化防止には知識・技術が必要であり、この問題の解決は化石燃料の消費を減らし、知識への投資を増やすからだ。」これは、昨年11月、日本経済新聞社の地球環境経済人サミットで、世界資源研究所のジョナサンラッシュ所長が述べたものである。具体的な事例を提示しながら、この提言を考えていきたい。

川崎市川崎区扇町にあるNKKの京浜製鉄所では、世界初の「廃プラスチック高炉一環リサイクルシステム」が稼働している。これは、ペットボトル、洗剤容器、OA機器、ポリ袋、発砲スチロール、建設用シートなど使用済みプラスチックを収集・ストックし、製鉄用高炉の原料として使用するものである。プラスチックは破砕・粉砕、切断・造粒されたうえ、高炉の羽口から次から次へと吹き込まれていく。石炭を輸入して作られた、従来のコークスに変わるものであり、石炭の省資源だけでなく、地球温暖化の主因である二酸化炭素の発生量も少なく、省エネルギー、クリーンエネルギーとして注目されている。

同製鉄所プラスチック高炉原料化チームの藤井マネージャーは、神奈川新聞のインタビューに次のように答えている。「塩素の処理技術が実用化され家庭ごみも扱えるようになれば、廃プラスチックは高炉十基程度ですべて処理できることになり、高炉でのリサイクルは廃プラスチックの決め手になる。」

新エネルギーの展開は、川崎に立地する企業との連携が大きな鍵を握る。今回紹介したNKKの事例でも、家庭ごみのプラスチックについて、塩化ビニールを取り除く技術が確立すれば、行政の収集したゴミを資源として高炉を燃やすことが可能になる。「環境」は二十一世紀の新産業の目玉であり、川崎市に立地する多くのモノづくり企業の知恵を活かす中から新しい展開がうまれる。「川崎21産業戦略」は、京浜工業地帯に立地する企業集積、つまり、研究機能・商品開発機能を持つ大企業と

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION