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あるいは、自然環境をみると水や空気のおいしさだとか、そういったカウントされない要素が出てくるわけです。つまり、県民所得82という指数の中にカウントされない要素がいっぱいあって、そうしたところに重点を置く、価値を持つという、そういう選択が十分ありうるわけです。

また、岩手は中山間地域、過疎地域を多く抱え、ひと昔前まで日本のチベットと言われるほど、典型的な過疎というイメージで見られているわけですが、例えば、人口密度を見てみると、一平方キロメートル当たりで岩手県は93人です。ちなみにヨーロッパのいろいろな国を見てみると、オーストリアが92人で岩手県とほぼ同じ人口密度の国であります。ヨーロッパの国が世界の標準的な基準であるというつもりはありませんが、比較の例として見てみると、フランスが102人で他の国もそれぐらいの数値のところが多いのです。日本の場合ですと、北海道は72人で別格として、その次に少ないのが岩手県です。この2つだけが2ケタであって、あとはお隣の青森県も秋田県も全部100人を超えております。一般に過疎の水準を見る場合、人口密度も一つの指標になるわけですが、岩手県ぐらいの空間の中で142万県民の方々が暮らしているというのは、ヨーロッパの平均的な姿であって、このぐらいの空間的な広がりが向こうの方では標準的なサイズであると言うことができるわけです。

自分のモノサシとか尺度を持つということになると、今まであまり問われなかった主体性が必要になるわけで、それは簡単なことではありません。むしろ大変難しいと言っていいかもしれません。これを人間個人としての問題で考えても、その人の生涯にわたるライフスタイルの確立ということと共通していると思います。次の各論でも、機関委任事務の廃止とからめてお話したいと思いますが、このように、地方で主体的に物事を考えていくこととか、自分たちで自分たちの地域のことは意志決定をしていくということを、しっかりと確立していく必要があると思います。そして、そうすることが、われわれ自身に可能かどうかということが逆に問われているのではないかと思っております。

地方分権の話というのは、地方分権推進委員会の勧告を見てもおわかりのとおり、内容も大変高度で、機関委任事務の廃止に伴う事務の振り分けとか必置規則の見直しとか行政関係者にはストレートに関係してくる話ではありますが、ともすれば一人ひとりの県民の方々の生活にどういうふうに関わってくるのかということの視点が見落とされがちであるわけです。これから地方分権の議論を進めていくうえでは、県民のそれぞれの暮らしの一つひとつがそのことによってどう変わっていくのかということを考えていくことが、大変重要だろうと思います。

それから、現在の地方分権をめぐる状況についての印象論ということでしたが、率直に言いますと、はじめからうまくいくはずはないと思います。今までの国、県、市町村、の関係が何十年もずっと同じ形で続いてきたものを変える時に、それが混乱なくすんなりいくはずがないのでありまして、いろいろなところで摩擦、軋轢が生じるのは当然のことです。

 

 

 

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