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二番煎じよりも足元から

 

そういうことに関連して一つ思い出すのは、インフラ関係でいえば、さっき申し上げた変な橋とか変な港とかの話もありますが、もうひとつ、文化ということに、ある時期から各地域は非常に意欲を持って事業を進めていらっしゃるけれども、こっちの方でも、なかなかおかしな文化が、いろんな形で出ていますね。ある所で音楽ホールを造る、あるいは文化会館、美術館、それと今は、博物館ですか。どこかがやると、みんな真似しちゃうわけですね。

長野県に小布施という栗で有名な町がありますね。あそこは地域おこしとか、まちづくりとかで注目を集めて、町長さんも大変おもしろい方で、私も2度ぐらいお邪魔したんですけれども、北斎伝説があるところですから、北斎と栗という二つの自分のところの財産をうまく使ってイメージにも生かすし、まちづくりにも生かしているわけです。すると、そこが一つ成功したということになると、みんな視察に行くんですね。別に視察に行っても悪くはないんだけど、視察に行って同じことをやっても、もうつまんないんですよね。もっと自分の足元を見てほしいなという感じがするんです。

また、秋田県で、みなさんご存じだと思いますけど、君待ち坂というのを中心にして恋文コンテストというのをやったんですが、これが大変当たっちゃいまして、全国から注目されるようになったわけですね。本なんかもベストセラーになったりして。そうしますと、そこの町長さんが言っていましたけれども、視察が絶えなくて、去年1年はほとんど視察にいらっしゃる方のお相手ばっかりなんだそうです。でも、恋文コンテストって視察しても始まらないですよね。言ってみれば手紙ですから。恋文をやろうという根拠になった君待ち坂という風光明媚な坂はありますけれども、そこを見たところでまちづくりのアイデアがすぐ浮かぶとも思えない。そういうような、おかしなことがいろんなところで起きているわけです。もちろん先人のすばらしい業績は学ぶにしくはないんですけれども、やはり自分自身のところに財産はあるんだし、その財産をどんなふうに生かしていくかというようなオリジナルな発想みたいなものをつくらないと、質的な地方分権はできないんじゃないかという感じがどうしてもするんですね。でも、一方で地方分権を言っている人たちが、地方分権を実現するためにいろんな人たちがやっていることを見て回って、同じようなことをやるわけです。やっぱり二番煎じ三番煎じじゃ、つまんないですよね。日本にいくつの市町村があるか、その人たちが全部オリジナルなことを考えるというのはとてつもないことで、無理なんですけれども、別にまちおこし、むらおこしをしなくたっていい、という選択だってあるわけです。自分たちは、そんなことしなくたって、今のままのゆったりとした静かな村で優雅に暮らしたいという選択だってあるわけです。たくさんお金なんて入ってこなくたって、食べて、お金では絶対に買えないような豊かな自然とか、風の匂いとかがあればいい。そういうものは、いくらお金を出したって買えませんから、ものすごい財産なわけです。そういう選択だってあるということを前提に申し上げているんですけれども。そうした形でもっと自分たちの住んでいるところを、足元をよくご覧になって考えてほしい。

 

 

 

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