結局、地元には何も残らないというようなことが起きているわけです。もしかすると皆さんのところでも起きているのかもしれません。大企業が来るのがいけないとか、大型店が来るのがいけない、とは申しませんけれども、そういうものと地元が、どうコンタクトを取って、どう地元化していくか。そうしたことを考えていかないと、地元が豊かになると思ってやっていることが、長い時間を見て考えた時に、結果的にそうじゃなくなるということも起きかねない。それは経済の問題であり、税金の問題に直接からまってくると思うんですね。地元に税金として、どれだけのお金が落ちるかということは、地方が財源的に自立しようと思ったときに大変大きな問題になるわけで、素人の私なんかより皆さんのほうがおそらくずっと現場で苦労していらっしゃるとは思うんですけれども、そのあたりも目先の利益ではなく、やはり長いスパンに立って考えていかないと、一番最初の自立の条件である金の面で大変なことになるという気がする。
実は、地方分権がこれだけうたわれている時代でも、まだそうなのかと思わされることが多いんですが、地方の方たちの目線というのは、どこかでまだ東京を見ているということを、何んとなく感じるんです。もちろん、この10年、5年でずいぶん変わってきたように思います。でも、地方のほうがいいんだぞっておっしゃる時に、自然体じゃないんですね。どこかで東京を意識していらっしゃる。意識しないで、無理なく、こちらがいいんだぞと思えるような人たちが出てきた時に、本当に地方分権というのは始まるという感じがするんです。何のために地方分権しなきゃいけないんだ、というのは非常に素朴な問いかけです。これには、事務処理がスピーデイになるとか、お金の無駄遣いがなくなるとか、いろんな答えがあると思うんですが、最終的には地方の、そこに住む人たちが豊かになるためでなければならない、ということだと思うんです。ぜひ、そこのスタンスを忘れてほしくないと思います。
精神的自立
それから、これは二番目の問題に話が入るんですが、自分たち自身で物事を決めていく、判断していくということが、私たちに本当にできるんだろうかということです。長い間に、お上に決めてもらう、あるいは、これだけテレビを中心としたマスメデイアが日本の隅々まではびこっているわけですから、物の考え方、物の見方も自分たちが意識しないで、誰かの目で物を見るような習慣になっていないだろうか。そうしたことを、もう1回、自覚的にそれぞれの方たちが考えていかないと、何か違うことになってくる可能性もあるかもしれないと思います。東北などでは、まだ「開発」という言葉が日常語として言われるんですが、10年以上前から東京では、「もう開発じゃない」という気分になってきている。そこに少し時間差は感じるんですけれども、もちろん開発が必要な部分もあるので、それらと、そうでないところの距離をどういうふうにとっていくか。そこの判断を自分たちの目と耳で、どのようにしていくかということが、大きな問題だという気がします。
私たちは、私も含めてなんですけれども、政治の状況などについても、仕方がないとか、どうにもならないとか、どこかで諦めてしまうといったことをしてきましたし、今もしているような気がするんです。だけど、地方分権はそれを言っていたらできないことですね。直接に政治をしろとは言いませんが、みんなが何か自覚をしてコンタクトしていかないと、実はあっと言う間に誰かの物の考え方にとらわれていってしまうという感じがする。地域エゴでもなく、自分たちの生活設計を、それぞれの地域々々がどう考えていくかということは、とりもなおさず日本人の生き方、考え方の転換みたいなことにも、どうも重なってくるんじゃないかという気がするんですね。私は先ほど沖縄の話をしました。沖縄は、歴史的な背景も風土的にも他の地域とはずいぶん違いますから、その例をそのまま敷衍はできないんですけれども、なぜ沖縄の問題を私たちが特集で考えたかというと、沖縄を考えることは、私たち自身の日本、そして地方と国の関係を考えることだと思うんです。
つまり沖縄は今、直接国と対峙しているわけですね。国という存在を私たちは日ごろの日常生活の中では、ほとんど意識してこなかった。私自身、正直ほとんど国なんて意識することなかった。だけれども沖縄の問題が出てきて、国って何だろうということが非常に大きな問題として出てきたと思うんです。沖縄にとって国は、言ってみれば……別に悪口という意味ではないんで、その仕事をしておられる方がいたら怒らないでほしいんですけれども……ブローカーみたいなもんですね。沖縄の人にとってみれば貸していた土地ですが、その貸し手の沖縄と借り手のアメリカの間に立っている日本という国家は、直接、貸し手と借り手が話し合いするところの間に入ってきて、いろいろやっているという意味ではブローカーとも言えるかもしれない。そういう形で、いったい国ってなんだろうということを、沖縄は私たちに突き付けたと思うんです。私たちが地方分権を考える時には、通らざるを得ないテーマがそこには含まれていると思うんです。もちろん抱えている問題はいろいろ違うんだけれども、地方分権というのはやはり国と地方の関係をどういうふうにつくっていくかということですから、それは、どう役割を地域が分担するかとか、大きなことから瑣末なことまでいろいろありますけれども、国をどう考えていくか、私たちの地域をどう考えていくかということでは、沖縄というのは象徴的な問題を含んでいる。